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「へえ、夢じゃ、なぃ……のかぁ」 熱に溶かされた声でへらりと笑う翔に目を見張る。 「ひろみち、」 億劫そうに手を持ち上げ、僕を呼ぶ姿を見て、理解し、慌ててそばに寄る。 「なにっ?」 声が上擦る。 「あいし、てる……」 「へ?」 とろりと笑われ、驚く。 これじゃ受けだわ!もはや! これだからイケメンは!!! 普段は格好いいのに、ふとしたところで可愛いのは反則だと思います。 惚れ直すじゃあないか。 「僕も、愛してる。ご飯食べる?お粥作るよ」 思わず素直に返してしまった。 僕の提案に、翔はびっくりしたようだった。 「作れる、の?」 「うん、作れるよ」 朝練習したからね。 米は自宅から持ってきていた。 無い家はないと思うけれど、念のため。 「じゃ、食べる」 「うん、よかった。梅干しと卵、どっちがいい?」 翔がとろりとしてるからか、僕まで釣られて優しい声になってしまう。 猫撫で声のような、とろみのある柔らかい声。 似合わない真似をしてるなあと思いつつ、今だけ特別だからいいことにした。 「たまご」 「わかった。じゃあ待ってて」 難しい方だーーーー!!!!と内心叫びながら笑顔で頷いておく。 こっち練習しておいてよかった。 立ち上がり、部屋を出ようとすると、翔が声をあげた。 「まっ、」 待って、と言おうとして、やめたみたいだった。 ……完璧すぎやしないか?! 理想の受けすぎて、うちの彼氏が可愛い。 でも普段は格好いいって最強じゃない……? 「大丈夫だから。できたら来るからね」 頭を撫でると気持ちよさそうに目を瞑る。 うっ、可愛い……! 名残惜しいけれど、作らなくては。 撫でる手を止め、キッチンへと向かう。 練習の成果もあって、たまご粥は上手く作れた。 スプーンと粥の入った碗を手に、翔の部屋に向かう。 そっとノックして開けると、翔は身じろぎをして僕の方を見た。 「できたよ」 「食べる」 スプーンを渡そうとすると、すっとそっぽを向かれてしまう。 「え、あんま美味しそうじゃない?」 「違う、食べさせて?」 はっ!? さっきよりよくなってきたのか、単に寝起きだっただけだったのか、にっこりと満面の笑みで要求されてしまう。 どうすれば!? なんでそうなったんだよ!さっきまでの可愛い翔くんはいったい何処へ……。 それは冗談としても、ええ、あーんってしろってこと?! やったことなんか、当たり前だけどないんですけど!? 「だめ?」 可愛いかよ!真っ赤な熱に浮かされた頰でうるうると熱で潤んだ目で小首を傾げるな!!!!!! あらぬ扉を開きかけて慌てて現実にカムバックする。 もう、ダメだという選択肢は僕の中にはなかった。
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