おまけ5 キャンセル

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「翔、あーん」 言われた翔が雛鳥のように口を開く。 心なしかさらに頰が赤くなったようだった。 そっと粥を掬い、息を吹きかけ適温にする。 翔の開いた口にそうっと差し入れる。 スプーンごと粥を食み、ごくりと嚥下する姿はどこか艶かしい。 これが、風邪引いてないと格好いい僕のダーリンなのだ。 まあ、ダーリンなんて呼んだことはございませんが。 「うま」 「本当?よかった」 2杯目を掬いながら、微笑む。 嬉しい。 レシピ通りだから、味付けは大丈夫なはずだけど。 それでもやっぱり嬉しい。 その後も、雛鳥に餌をやる気持ちを味わいながら翔にあーん、をやり続けた。 ままごとみたいだと少し思う。 「よく食べました」 えらいえらい、と頭を撫でると、翔が擦り寄ってくる。 甘えてもらえるのって嬉しいんだなと気がつく。 甘えさせてもらえるのも嬉しいけれど、甘えてもらえるのってそれよりもっと幸せなことだ。 「やべえ、ずっと熱出たままがいい」 何を抜かすんだ? いきなり口を開いたと思ったらこれである。 元気なのが、一番だ。 ……甘えてくれるのは、いつでも大歓迎だから、早くよくなって。 辛そうな翔を見ていたくないから。 「やだ、早く治って」 「俺が風邪引いてるの、嫌?」 「うん」 「じゃ、もう俺が風邪引いても看病してくれない?」 「まさか。するに決まってるでしょ」 一体何を言ってるんだ。 別に、看病が嫌だからじゃない。 「ならいいや」 ほっとした顔で言ってそのまま寝落ちするもんだから、こっちがびっくりする。 勘弁してよ、無理させたかなとかめっちゃ心配した。 そのまま、僕もご飯を食べて、食器や鍋を片付けた。 綺麗な状態にして、満足する。 今日、親御さんが旅行から帰る予定だと聞いてる。 帰ってくるまで、お邪魔しててもいいかな。 いいよね。 翔の寝顔を眺めたり、ウェブでBLを読んだりしている間にあっという間に時間が経っていて驚く。 もう、日が暮れるところだった。 親には遅くなると言ってあるから、なんとかはなるだろう。 夕飯の前には翔のご両親が帰ってくるらしい。 なあんてことを思っていたら、ガチャリと戸が開く音がする。 僕は慌てて玄関に行き、事情を説明した。 ……夕飯までご馳走になるとは思ってなかった。 起きた翔も熱が少し下がっていたようでほっとした。 帰り道、1人街灯を見上げてふと思う。 多分。 まだこれからいろんな思い出が増える。 もし、翔と僕が一緒に住んだら。 そしたらもっといろんな顔が見られるんだろうか。 だとしたら、とんでもなく楽しみだ。 家に帰ったら、勉強しなきゃな。 今日も、デートじゃなかったけど、翔と過ごせてよかった。 はやく、翔が全快しますように。 fin. 最後までお付き合いくださりありがとうございました!! あさやけぐも改め湯野マキカです!! 楽しんでいただけましたでしょうか? 最後、ぎゅうぎゅうになっちゃって若干見苦しいですが、お許しくださいませ。渋谷は翌朝に解熱してたらしいですよ。よかったよかった。 また気が向いたら何か書くかと思います。 腐男子全開なのも書いてみたいんですよね……。需要、あるのかしら笑。 ありそうなら、八月の第二週くらいから書こうかしら。 それでは。 永遠に続きそうな梅雨に懲り懲りしている湯野マキカ拝。
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