浮き沈み

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失礼します、と言いながら店員さんが渋谷が頼んだ品を置いた。 「ごゆっくりお楽しみ下さい」 「じゃ、中野、誕生日おめでとう!」 ケーキだった。 美味しいと評判のチョコレートケーキじゃなかった。 小さな、丸いケーキ。 おそらく2人分であろうサイズのホールケーキだった。 苺やブルーベリー、ラズベリー。 宝石のように輝く果物ののったケーキはキラキラと輝いて見えた。 そして蝋燭が暖かなオレンジの帽子をかぶり輪になって立っていた。 ゆらりと揺らめく炎が涙腺を緩める。 「渋谷……」 ありがとう、は声にならず涙となって落ちた。 「わ、え、ちょ、泣くなって」 「ごめん……」 「喜んでもらえたってことでいい?」 「ん」 「よかった」 渋谷がほっとしたように嬉しそうに笑う。 綺麗な、花が綻ぶような笑顔がこんなに近くで、見られることがとても幸せだと思った。 「ほら吹き消して」 何年ぶりだろう。 蝋燭の火を吹き消すのは。 「おめでと。……じゃあ、取り分けようか」 「うん」 ケーキナイフを持ち、丁寧に二つにカットする渋谷の手先は整っていて綺麗だ。 彼女がいるのに、こんなことしてていいのかな。 ふとよぎった疑問はなかったことにした。
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