桃の香りと翔ぶ鳥

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いつも通りのチャイム。 いつも通りの朝。 違うのは、僕。 いつも通りの振る舞いをなんとかキープ。 心は大雨、外は快晴。 ……いや、詩人になるのは諦めよう。 失恋ソングを作れるのは一部の人だけなんだよな。 なぜかしみじみと思った。 現実逃避。 「はよ」 「昨日どうした」 友人達に声をかけられる。 念のため言っておくと友人くらいはいる。 頭痛がしたんだとそれとなく返す。 席についてぼんやりとする。 授業は昨日の予習が功をそうして何とかなった。 渋谷を思わず目で追ってしまう。 他人だと、言い聞かせながらも、やっぱり目で追ってしまう。 好きだなと、感じる。 先生の質問に爽やかに答えるイケメンっぷりが格好いい。 美声、というほどでもないのにあんなに心地よく耳に響くのは何故だろう。 いつのまにかぼんやりしていると授業が終わったらしい。 昼休み突入。 らしい。 周囲の雰囲気はそんな感じ。 あの後から、ずっとぼんやりしてる。 何となく、世界がもやの向こうにあるような。 「なーかのっ」 「……」 無言で席を立つ。 渋谷と、まだ普通に話せるほど立ち直りは早くない。 渋谷、ごめん。 「え。ちょ、待てって」 「……」 無視してすたすたと歩く。 「頼むから、さ!ね、一昨日の説明させてくれって!」 説明じゃなくて言い訳だろ。 聞きたくない。 まじでごめん。 渋谷は、悪くない。
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