桃の香りと翔ぶ鳥

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脇目も振らずに教室を出る。 渋谷がついてきている気配がするが、無視。 騒めく廊下を容赦なく人をかき分けて進む。 散々歩くと、そこはいつの間にか高1のエリアで、振り返ると渋谷はいなかった。 ほっとしたのと寂しさと、あと何か心細いような何かをまとめてため息で押し出す。 「えっと!中野さん?」 「はい?」 いきなり後ろから女の子に声をかけられた。 振り返るとモモコさんがいた。 悪夢か何かなのだろうか。 それとも嫌がらせなのだろうか。 名前まで、覚えられているのはなぜだろうか。 渋谷は僕をなんと説明したのだろうか。 ぐるぐるとした疑問と苛立ちで、トゲのある言葉が飛び出した。 「うるせえ。渋谷とでも話せば?」 驚いた顔をしたモモコさんを見て、罪悪感が浮かぶ。 ごめん。今日の僕は、どうかしている。 「あれ?桃子、何やってんの?」 見知った声が、飛び込んできた。
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