桃の香りと翔ぶ鳥

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渋谷だ。 現実を見たくなかったから逃げたのに、なんでまた二倍になって返ってくるんだろう。 最悪だ。 今、僕はひどい顔をしているに違いない。 「あれ、翔じゃん。なにしてんの?」 「今、中野を見失っちゃって……。ってあれ、中野じゃん」 逃げ出したいのに。 固まってように動けなくて。 きれいに動く渋谷の口から目が離せなくて。 モモコさんのかわいい声が渋谷の名前を呼ぶのがしんどくて。 「え、な、 中野!?」 あーあ、泣かせちゃったー。 渋谷の声とモモコさんの声が遠くからする。 僕は、ブラックアウトしていく視界で必死に渋谷を探した。 だけど、見つけられないまま、世界は闇の底に落ちていった。
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