桃の香りと翔ぶ鳥

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「実はさ、いないんだよね」 「はああ!?」 あきらめたような顔で、渋谷は言った。 「だって、面倒なんだよ。告白断るの。好きな奴いるのに」 真っ赤な顔で弁解してくる渋谷はかわいらしくて、でも、心臓がぐさりと抉れた。 好きな人、いるんだ。 どんな可愛い子なんだろう。 告白とか、するんだろうか。 失恋だな、と思った。 「そ、そうなんだ……」 「うん、女の子たちには悪いけどね」 苦笑いの渋谷は、どんな表情でも格好いい。 ズクズクと痛む胸は、きっと永遠に渋谷には伝わらない。 「なんかマジでごめんな」 誤解させちまったみたいだし。 と、渋谷がまた苦笑する。 申し訳ないって顔。 そういう顔も、惚れるんだってば。 やめてくれ。 渋谷のいろんな顔が見られるのは嬉しいけど、こういう理由でってのはお断りなんだ。 ああもう馬鹿野郎。 好きだってのはそうそう変わんないから。 好きなままでいさせて。 夢はいつまでも夢のままじゃいられないってのもわかってるけど。 もう少し、夢を壊さずにいてくれ。 ダメかもしれないけれど。
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