12人が本棚に入れています
本棚に追加
伝説に従い、俺は満月の晩に湖に行った。
そして月明かりの下で、妻を、湖の中に投げ入れた。
妻はすぐに浮かび上がってきた。
湖の精霊。
無数のぬめった触手を持つそれが、二人の妻を宙吊りにして、こちらに差し出してきた。
俺は意識を失っている二人を受け取り、人間の重さに苦しみながら街に戻り、目覚めてすぐに悪態を吐いた方をトンカチで殴って殺し、埋めた。
残った良い方の妻は、俺のやった事を恐れたが、すぐに肯定してくれた。
「悪は滅びて当然ですよ」
その通り。
俺もそう思う。
それから幸せな日々が始まった。
良い妻はいつも俺にとっての最善を尽くしてくれる。
俺は満足していた。
ある日、良い妻が言った。
「ねぇ、あなた。次の満月はいつでしょうか?」
「来週じゃないかな」
「そうですか」
「どうした? まさか今以上に良くなりたいのか?」
「……ええ、はい」
妻ははにかむように笑った。
俺は妻の心意気に感動した。
流石は良い妻だ。
これ以上更に良くなろうとしてくれるなんて。
次の週、俺達は一緒に湖に行った。
なのに気付いたら、俺はベッドにいた。
「あれ? ここは家か? 俺は一体……?」
「あなたは疲れていたのです。湖の前で気を失ってしまったのですよ」
「そうか……。ありがとう。家まで運んでくれて。君は大丈夫か? どこも悪くないか?」
「ええ、勿論」
「良かった」
俺は妻の無事に安堵した。
疲れて倒れた俺を家まで運んでくれたとは……本当に妻には感謝の念しか沸かない。これからも妻の為に頑張らねばと思った。
「明日から、家事は俺も手伝うよ」
「あら。それは嬉しいです。一体どうしたのですか?」
「どうしたって……人の手助けをするのは当然だろう?」
良いことをしよう。良いことをしなければ。
俺はそう思った。
妻はそんな俺の提案が嬉しかったのか、
「良い夫で良かった」
と微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!