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01.目覚め
激しい頭痛の中で俺は目覚めた。
いや、目覚めたというより、意識を取り戻したというのが正しいのかもしれない。
まるで暗がりに拡散してしまった自我がひとつに集約していくような、そしてふたたび形を成していくような、そんな不思議な感覚だった。
意識がハッキリしてくるにしたがい、頭の痛みはおさまっていった。
そして入れ替わりに感じたのは、閉じた瞳の裏にうつる強い光、そして横たわった背中の下のゴツゴツした感触だった。
この明るさと硬さはたぶん屋外。それも地面の上にそのまま寝転がっている感じだ。
「んんッ!」
呻きながら体をねじると、背中とこすれる地面の感触が生で伝わってきた。
同時に乾いた風を感じる。
体全体に、それも直接。
この時点で、かなり嫌な予感がした。
「痛ッ……」
頭を抱えながら身を起こす。
薄くまぶたを開けると、洪水のように光が流れ込んでくる。
掌で日差しをさえぎりながら自分の体を見た。
すると、
「なんだぁ!?」
服を着てない。
てか、服どころか下着もない。シャツはもちろんパンツもだ。
薄目で周囲を見わたすと、びっしり並ぶ足が目に入った。
しょぼついた目を上げる。
するとそこには、やたらいかついオッサンたちが俺のまわりを取り囲み、汚いものでも見るような目で見下ろしている。
男たちの背後には、がっちりとした木組みの建物が見えた。
切り立ったでかい屋根や、クロスする梁を漆喰で埋めた外壁。茶褐色を基調としたアンティークな色合いは、絵に描いたようなヨーロッパ風の街並みだ。
そんなシックな建物がぐるりと四方を囲んでいる。どうやらここは広場のような場所らしい。
さらに顔を上げるとすぐ前に、ひときわがたいのいい男が目に入った。
彫り深い顔にガラス玉のような青い瞳、鼠色のごわごわした服を着た野性味たっぷりの大男だった。
目と目が合って見つめ合う。
「あ、はは」
愛想笑いしながらのけぞった。
間の悪さは笑ってごまかそうという、悲しいほどの日本人的反応だ。
しかし一方のこいつは、どう見ても日本人じゃねえ。オマケにそのどこか見下した視線は、愛想笑いを振りまいたところで、俺への思いやりなど望むべくもない感じがする。
まずい
まだ回りきらない頭で考えた。
逃げだそうにもこの格好だ。その上、頭はまだクラクラするし、まともに走れるかは怪しい。ここはひとまずこいつに媚びを売ってでも、なにか羽織るものを手に入れるべきではないだろうかと。
「は、はろー、ないすちゅーみーちゅー」
無い知恵総動員して挨拶してみた。
初対面の人にはなにをさておき挨拶が、じいちゃんの遺言だからだ。まだ生きてるけど。
するとそのでかいオッサンは、フンと小さく鼻を鳴らした。
俺様が必死に示した親愛の情を、鼻で笑いやがったわけだ。
とてつもなく失礼なオヤジだ。
そっちがその気ならこっちにも考えがある。
足下にすり寄ろうか、土下座しようか迷っていると、オッサンの後ろから小柄な老人が現れた。
髪も眉毛も、長く伸ばしたヒゲも真っ白で、太く長い木の棒を杖に使ってる。欧風仙人みたいな胡散臭い爺さんだった。
その爺さんは、品定めするように裸の俺を見まわした。
「こりゃまた、貧相なガキがやってきたもんぢゃのぉ」
なんと、このジジイ、日本語をしゃべりやがった!
「失敗じゃないのか?」
「見た目だけぢゃあわからん」
「にしても、あの細い腕じゃ剣も満足に振れんぞ」
「儀式は滞りなく終わっとる。それに、大事なのは腕の力ぢゃないわ」
とかなんとか、でかいオッサンと日本語でもめている。
わかった。ここはどこかのテーマパークで、これはたちの悪いドッキリに違いない。
カメラ、カメラと見回してると、
「ぬし、名は何と申す?」
爺さんが聞いてきた。
まさにそのときだった。
「きゃっ」
俺の後ろで女性の悲鳴が上がった。
びっくりして振り返ると、すぐ後ろの地面に裸の女性が横たわってる。
俺と同じ、下着もなにもつけないフルヌードだ。
「先生?」
その人を見て、俺はわが目を疑った。
全裸で石畳に上半身を起こし、両腕で必死に体を隠そうとしている。その人の名は島崎七瀬、俺のクラスで英語を教える女教師だったからだ。
島崎先生が着任したのは、三ヵ月前の春。
大学を卒業してすぐ先生になったという話だから、年齢は22か3のはず。
清楚な美貌と抜群のスタイルは全校男子生徒の注目の的。隠し撮り写真も大量に出回っていて、中にはけっこう際どいものまである。それらをオカズに、毎晩のように先生にお世話になっているというヤツはたくさんいる。
その七瀬ちゃんが、いま俺の目の前に全裸でいた。
細く長い手足に肉づきのいいカラダ。手ブラ状態で必死に隠そうとしている胸は、噂どおり余裕でDは超えている。Eは確実、ワンチャンFもあるかも。
加えて秀逸なのは腰まわりだ。体をひねって前を隠そうとしてるってのはあるにしても、それを差し引いてもかなりのくびれ。グラビアクイーンを見慣れた俺をして、S級エロボディの太鼓判を押せるカラダをしている。
その上、今にも泣き出しそうなくらい恥じらいに満ちた表情がいい。
「ゃだ……」
体を縮めながら思わず漏らした声にさえ。日ごろ見慣れたAVとは別次元の趣がある。
神より授かったこの光景を目に焼きつけんと、ガン見しようとした。
ところがだ。
俺を取り囲んでいた男たちの視線がいっせいに彼女に移るのを感じて、はっと我に返った。
周囲を見渡す。
すると、さっきまで汚いものでも見るように俺を見ていた野郎どもが、まったく違った視線で先生を見つめてる。
「てめぇらぁ!」
込み上げる怒りに、思わず叫んだ。
大事にしていたアイドルのエロいカットの写真集を、知らぬ間に兄貴のオカズに使われたような怒り。てのとはちょっと違うけど、要するに、俺の憧れの先生を、どこの馬の骨ともわからん野郎どもが下心丸出しの目で見るなど許せなかったのだ。
「見るなぁぁッ!」
すくと立ち上がると、先生の前に立ちはだかり、両手を広げて視線をさえぎった。
聖職者であるこの人の体は、そんな欲望まみれの視線にさらしていいものじゃないとばかりに。
すると、目の前にいる爺さんが、しげしげと俺を見た。
目線が顔から下腹に下りて行く。
「そう言うぬしも、ぢゃがな」
真下を見ると、元気いっぱいの男の子が背伸びをしている。
俺はあわてて両手でその子を隠した。
爺さんがニヤリと笑う。
「持ち物だけは勇者級ぢゃのぉ」
この、エロジジイがッ
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