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日の入り前
ぼくは、しゃべったことがなかった
ぼくだって、
言葉を理解することはできるし、
頭の中で、言葉を組み立てることもできる
ただ、声が出ないんだ
「どうして?そんなのかんたんなことでしょ?ほら、私のまねしてごらん」
何度もそう言われて、見よう見まねで口を動かしてみても、ダメだった
ぼくには、できないんだ
そう気づいたら、誰かの傍にいるのが恐くなった
「遊ぼうよ!」
「お手伝い、してくれる?」
ぼくに、近づかないで!
ぼくに、なにかを求めないで!
ぼくは、なにもできないから
笑われるのが恐くて
失望されるのが恐くて
逃げまわるうちに、周りには誰もよりつかなくなった
いいんだ
ぼくが、叫んでも、嘆いても、
どうせ、誰にも届かない
痛みや悲しみは、ぼくの中に、ただ積もっていくだけだから
だからぼくは、夜になるとあの場所にいくんだ
月がよくみえる、あの広い原っぱに
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