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『月のため息』(安志&涼編)2
月影寺、客間にて……
「はっ……ハクション!」
「なんだ? 涼、風邪でもひいたのか。さっきからどうした?落ち着かない様子だが」
俺達はクリスマスの後一旦家に戻ったが、再び正月の間、この寺の世話になる。翠さんに案内され、客間で待っていると、涼が妙にそわそわしている。
「いや、悪寒が……あー、やっぱり洋兄さん怒ってるよなぁ」
「何のことだ?」
「あれだよ、あれ……事務所のクリパで当選したあれを、洋兄さんに冗談でクリスマスプレゼントにあげたんだけど……すぐに怒ってくると思ったら無反応で、かえって……それが怖いよ」
「え? あれを洋にあげたのか。ウハーっ! それ丈さんに怒られないか。涼はバカだな」
可愛いことしたなぁ……とニマニマしてしまう。俺は涼に激甘だから。
「わー言わないで。僕も後悔してるんだから、洋兄さんからのクリスマスプレゼントを見た時にさ……」
「あぁ、洋のは洒落ていたよな。俺達ひとりひとりをイメージしたオーデコロンだなんて」
「ううう……それなのに僕あんなふざけたもの渡しちゃって、まずいよな。まずい、まずい、どうしよう。安志さん!」
涼が真剣に震えながら抱きついて来た。
へぇ、いつも堂々として明るい涼でも、こんな風に不安がることがあるんだ。
涼は、どうやら洋に怒られるのが一番怖いらしい。
幼い涼も可愛いなぁと。俺の口元は緩んでしまう。
小さい子供を抱っこするように、優しく抱きしめてやれば、太陽を浴びたレモンやオレンジの柑橘系の香りが鼻腔を掠めた。爽やかな涼らしい香りで、深呼吸したくなる。
「洋は、確かに怒ると怖いが、まぁ恥をかかない限り怒らないだろ。なかったことにしてくれるよ。きっと……」
「そっそうかな。はぁ……安志さんにそう言ってもらえると元気でる。ありがとう!」
俺のことを伺うように下から見つめる涼の視線は、甘くて可愛すぎて困る。あのクリスマスのサンタの衣装の涼も最高にキュートだったが、こんな風に俺に甘えてくる涼も最高だ!
新年早々幸せだなと、ついニヤついてしまう。
俺に寄りかかる涼の重みは、幸せの重みなんだよな。
****
「涼、いる?」
「きっ来た!どどどどどどーしよ!」
客間をノックする声は洋だった。いよいよ涼が案じていたことが現実になるのか!
「あ……安志さんは、僕の味方だよな?」
うーん、もちろんそれはそうだが、洋の言い分も聞かないとな。とは言えず曖昧に微笑むと、涼は叱られた子供みたいに怯えた目をした。流石に可哀そうになって、その柔らかい髪を撫でてやった。
「よしよし。俺が守ってやるからな」
「う……ん、約束だよ」
ギュッと俺のセーターの裾を掴む手が可愛いな。
「涼、いるんだろう?……ちょっと話しがある」
それにしても、いつになく低いトーンの洋の声。
俺も怖えぇー!
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