4248人が本棚に入れています
本棚に追加
『月のため息』(再び丈と洋)
今日は先に補足をさせてください。
本来ならばここで『海を越える恋 【Kai×優也】編』が入るのですが、既に深海の方に転載済みでしたので、省略します。もしもご興味がある方は『深海』82頁以降 https://estar.jp/novels/25516988
その後の二人『海を越える恋』1~8で、ラブラブな遠距離恋愛をたっぷり書いていますので、遊びにいらしてください♡
1,030話までついてきて下さった読者さま、ありがとうございます。実は、他の投稿サイトで連載していた時のストックが、あと140話ほどです。なんだか終わりが見えてきて寂しいですね。まだ未完なので、ストックがなくなったら続きを書きたいと思います。
クリスマスからお正月までのんびり書いてきましたが、明日から13章『始動』に入り、物語は再び大きく動き出します。
では本文です。今日は……少しまとめ的な抽象的な短いお話です。
『月のため息』(再び丈と洋)
****
「ただいま」
「お帰り、洋」
離れの俺達の新居に戻ると、つい「ただいま」と言ってしまう。
丈の「お帰り」という声が何度でも聞きたくて。
俺の家だ。
ここは俺と丈が生きていく家だと、その度に実感できるから。
「遅かったな。風呂に入っておいで」
「あぁ、そうするよ」
すでに風呂に先に入った丈に言われ、素直に従った。とにかく寺の正月というのは忙しさが半端なく、疲労困憊だ。だからなのか、早く丈に温めてもらいたいと思った。
丈も同じ気持ちのようで、バスローブ姿でベッドで待っている。
風呂からあがると、丈が窓辺に立って空を見上げていた。
「丈……何を観ている?」
「あぁ、洋あがったのか。今宵の月も大きいな」
一緒に月を見上げると、満月のようで満月ではない月が、新年の研ぎ澄まれた空に浮かんでいた。竹林を照らす……冬の月は厳かで美しい。
「昨日がスーパームーンだったからかな」
「なるほどそうか。満月の翌日か」
「うん……でも、欠けていく月のサイクルだけどね」
「なるほど、それは自分を振り返るのに適した時期とも言うな。満ちていく月の時期に得たものを自分なりに考えて消化していくと身に付きやすいそうだ。溜まった疲れやストレスを解消するのに適している時期に入ったのだな」
丈の低い声に、痺れる。
「そういう風に捉えるといいね。丈……あのさ……今日は、ゆっくりと抱いて欲しい」
「ふっ、余裕の発言だな」
「違う! そうじゃなくて」
「分かっているよ。さぁ、おいで」
丈に手を引かれベッドに横にされると、青い深海のようなリネンのシーツが肌にひんやりと触れた。
「寒いか」
「大丈夫だ。でも……ブラインドを降ろさないと」
「今宵は月が綺麗だ。月と洋の両方を愛でたい」
「なにを馬鹿なことを……庭から丸見えだ」
「大丈夫。誰も来ない」
「はぁ……丈は変な自信をいつも持っているよな」
「さぁ、もうお喋りはここまでだ」
丈によって唇を塞がれる。
「ん……」
海に浮かぶように力を抜いていくと、パジャマを脱がしながら首筋から胸元を器用に辿っていく口づけに、震えた。
俺の身体……期待している。丈に触れて貰いたくて待っている。
「んっ……もっとゆっくり……」
「あぁ」
いつもよりゆったりとした動きで、丈が俺の身体を愛おしげに愛撫してくれる。じんわりと広がる熱がつま先や指先にも広がっていくのを感じた。
もっと触れて欲しい……
俺を丈の熱で満たして欲しい。
欠けていく月があるから
満ちていく月がある。
欠けている時は補い合い
満ちている時は分け合えばいい。
そうやって今年も、俺は丈と生きていく。
二人で育むのは、夜空に浮かぶ月のような年月。
「丈、今年もよろしくお願いします」
「ふっ、洋、しおらしいな」
「……好きだから」
「私も愛している」
二人の間で、いつも繰り返される愛の言葉。
「ん……」
言葉は贈るものだと、丈に抱かれながら思った。
心の中で思っていることを、今年はもっと素直に伝えていきたい。
愛を伝えることは、恥ずかしいことではない。
心を言葉にしていこう。
もっと、もっと……
揺さぶられながら、新年に願うこと。
「ただ、ひたすらに……シンプルに丈が好きだ」
12章 了
最初のコメントを投稿しよう!