新春特別番外編 雪の毛布 3

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新春特別番外編 雪の毛布 3

 しんしんと雪が降る中、参拝客がしずしずと山門を潜ってやってくる。  色鮮やかなマフラーに白い雪を積もらせて、皆、凍えるように震えている。 「こちらへどうぞ。お寒い中ありがとうございます。甘酒をお飲み下さい」 「まぁ、嬉しいわ。こちらのお寺の甘酒は絶品なのよね」  月影寺では元旦に甘酒を振る舞うのが、祖父の代から恒例だ。  今日は特に雪で冷え込んでいるので、喜ばれるだろう。  住職自ら振る舞うので、あっという間に長蛇の列が出来てしまった。 「さぁ暖を取って下さい」 「キャー 翠さまぁ~」 「麗しいお方」    お淑やかそうなご婦人方も、狂喜乱舞だ。  やれやれ、翠は相変わらず新年から大人気だ。  そんな翠を、夜更け過ぎには、雪見障子をあげた茶室で組み敷く。  俺のこの手で恥じらう翠の肩を押しつけて、大波小波のように強弱をつけて腰を打ち付ける。  フフフ……  俺には巨大な人参がぶらぶらしているので、今はぐっと耐え忍び、裏方に徹することが出来るのさ。 「……邪悪ですね」 「え?」  助っ人に入っていた小森が、じっと俺の手先を見つめてボソッと呟いた。 「邪な心で人様が口にするものを作ってはいけないと、住職さまが仰っていましたよーだっ!」 「ははは、小森には俺の煩悩がお見通しか。あーあ、小森にはおやつにお汁粉を用意しようと思ったがいらないのか~」 「おしるこ! 邪は過ぎ去り、今の流さんは清らかに流れる水のようですよ!」  フフフ……  小森の買収は簡単だ。  ニヤリとほくそ笑んでいると、洋くんがやってきた。  銀鼠色の着物が、様になっている。 「それは夕凪の着物か」 「はい、お母さんが着付けてくれました」  夕凪が残した着物を、君が身につける。  それはとても至極当然なことで、夕凪も喜んでいるだろう。 「流さん、あの……俺も何か手伝いたいのですが」 「あぁ助かるよ。丈は?」 「丈は庫裡で皆さんの昼食の支度をしていますが」 「そうだったな。じゃあ翠と交代してくれ」 「はい」  洋くんは、相変わらず月の精のように美しく、すっかり月影寺の年中行事に馴染み、率先して寺の手伝いをしてくれるようになったのも良いことだ。 「翠さん、交代します」 「洋くんか、助かるよ」  洋くんの登場に、また参拝客が息を呑む。  あんなに美しい人から甘酒を振る舞われたら、天にも昇る心地だろう。 ****  元旦の勤めを恙なく終えて、檜風呂に浸かる。 「翠、湯加減はどうだ?」 「ありがとう。最高だよ」 「一緒に入ってもいいか」 「……うん、入ろう」  ここは僕たちだけの離れだ。  何人たりとも侵すことは出来ない。  だから安心して僕は流に悦びの全てを捧げられる。 「翠は寛大だな」 「ご褒美をあげると言ったからね。住職に二言はないんだ」 「ふぅん……だが今は住職ではないだろう」  曇り硝子の向こうに肌色の量が増え、引き戸が開く音がガラリと浴室内に響いた。  白い蒸気が外へ逃げると、流が逞しい身体を惜しげもなく晒しているのが浮かび上がった。 「え?」    僕の視線はある一転に釘付けだ。   「どっ、どうして、もうそんなに……?」    隆々とした胸筋にも目が行くが、そのもっと下の……  春先の筍のようにどんどん大きくなるモノから目が離せない! 「人参効果で、ぶらぶら~ だろ?」 「ばっ……馬鹿!」  流がピョンと飛び跳ね、湯船に飛び込んできた。
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