新春特別番外編 雪の毛布 4

1/1
前へ
/1578ページ
次へ

新春特別番外編 雪の毛布 4

 明け方、雪がぴたりと止んだ。  それからゆっくりと夜が明けていくのを、雪見硝子越しにひとり楽しんだ。  遠い昔、夜明けは別れの合図だったが、今は違う。  愛おしい人を今日も丸ごと愛せる喜びを感じる一時だ。  腕の中で静かな寝息を立てる翠。  乱れた髪をそっと整えてやり、もう一度深く掻き抱いた。  昨夜……雪明かりに浮かび上がる翠の白い身体に息を呑み、その清廉とした美しさに恋い焦がれ、何度も細い腰を掴んでは欲望を注ぎ込んでしまった。  何をしても翠は許してくれる。 「僕もそれを望んでいた」  その一言で、少しの罪悪感を帳消しにしてくれる。 「流石に疲れたよな。少し休め」  目覚めた時に裸のままでは恥ずかしがると案じ、枕元に用意していた真新しい浴衣をさっと着付けてやった。  翠はよほど疲れてしまったのか、目覚めない。  長い睫毛だ。  整った鼻梁と淡く色づく唇。  何もかも俺好みに整っている。  浴衣で隠れた部分には、俺がつけた花が散らばっているだろう。  真っ白な雪の中咲く赤い牡丹のように。  一度きちんと着付けた浴衣を、今一度はだけさせたくなる事後の朝だった。 ****  翌日、僕は気怠い身体を気遣いながら、住職としての勤めを恙なくこなした。  参拝客も落ち着いた夕刻、小森くんがワクワクした顔でやって来た。 「住職さまぁ、少し雪で遊んでもいいですか」 「いいよ。流、遊び相手をしておやり」 「えぇ、なんで俺が?」 「流は全然疲れていないようだから、もう少し体力を使っておいた方がいいような気がして……」  僕は、なんてことを。  これでは、まるで今宵も契ろうと言っているようではないか。  すると流が愉快そうに肩を揺らした。 「ふっ、可愛いことを。俺の体力が不滅なのは知っているくせに」 「あ、遊び相手がいた方が、小森くんも楽しいだろう」 「それはそうだ。昔は兄さんが相手をしてくれたよな」 「うん、僕はここから見ているよ」    僕たちが小さい頃、雪は今よりもっと頻繁に降った。  よく流と雪だるまや雪兎を作ったのを思い出していた。  最近は雪がこんなに積もることは滅多にないから貴重だな。 「流さん、僕に雪うさぎさんをつくってください」 「任せろ」    小森くんがあまりに嬉しそうに雪と戯れている様子を見て、ふとあの子のことを思い出した。  夏に温泉宿で偶然出逢った静留くん。  天真爛漫な彼にまた会いたいな。  あの子は、こんなに深い雪を見たことがあるだろうか。  きっと今の小森くんのように大喜びしてくれるだろうな。  小森くんにも同年代の友人がいたらいいと思うし、ここにお誘いしてみようか。  天気予報を確かめると、この一週間は関東でも北国並の寒い日が続くそうだ。  雪は暫く、月影寺に留まるだろう。  僕は背筋を伸ばして正し、筆をしたためた。 あの子は漢字が苦手そうだったので全部平仮名で…… 「しょうかんのじきとなりましたが、いかがおすごしですか。ゆきがふって、おてらのにわは、すっかりふゆもよう、です。しずるくん、とうやくん、もしもおじかんがありましたら、ぜひ、あそびにきてくださいね。(小森くんや流と)ゆきあそびなどもできますよ」  筆を置いて一息ついていると、流が息を切らせてやってきた。 「翠に見せたくて、写真を撮ってきたぞ! どうだ? 月影寺の雪景色は見事だろう」  真っ白な雪で覆われた銀世界は圧巻だった。  これは僕たちだけで独り占めするには勿体ないね。  すぐにでも手紙を投函しよう。 「流、この写真を現像してくれないか」  雪景色の写真を添えて…… **** 新春スペシャルで沈丁花さんの『朝日に捧ぐセレナーデ』https://estar.jp/novels/25665253の東弥くんと静留くんとクロスオーバーします! 翠のお手紙の部分は沈丁花さんのお話の抜粋になります💕 (沈丁花さんが書いて下さった話は、後日エッセイにてお披露目しますね) 彼等とは夏の温泉旅行で知り合った設定になっています。 30スター特典「とろけたい」で登場しています。 このスター特典は翠流を溺愛して書いたノリノリな話です。 https://estar.jp/extra_novels/25922820    
/1578ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4244人が本棚に入れています
本棚に追加