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逃避行 4
「洋……後ろを向け」
「んっ」
丈が抱いてくれる。俺のことを愛おしんでくれる。
あの日の悍ましい出来事なんて全部このシャワーの水と共に流れていけばいい。もう忘れよう……消せない過去だが、こうやって丈に抱かれ上書きしてもらえるのなら、もう忘れたいよ。
「んっ……!」
丈の熱く高まったものが、一気に俺の胎内にぐぐっと押し込まれてくると、久しぶりで立ったままの挿入の衝撃で一瞬頭の中が真っ白になってしまった。そんな砕けそうな俺の腰を、丈の逞しい手がしっかりと支えてくれた。
「あぁっ!」
あぁ……丈がいい。やっぱり丈でなくては駄目だ。本当に俺と丈は何故こんなにもしっくりと合わさるのだろうか。挿入された熱いものが、ゆっくりと動かされ、俺の緻密な襞を擦る度に、疼くような心地良さが躰中へと満ちていく。
「洋、気持ちいいか」
「あぁ……いい。凄く……」
「洋も、もっと感じろ」
丈の手が後ろから周り、俺の大きくなりつつあるモノも共に高められていく。
「あぁ丈……俺はいいから」
「何を言う? もちろん一緒にだ」
丈の大きな手で扱かれれば、気持ちよさに腰がブルブルと痙攣したように震えてしまう。出しっぱなしのシャワーの湯気で、あたりが白く幻想的だ。俺と丈の熱い吐息が熱い蒸気に混ざり、涙も唾液も白濁としたものでぐちゃぐちゃだ。
もっともっとして欲しい。こんなこと考えるなんて俺はおかしいのだろうか。あの犯された日から、汚れた俺はもう丈にこうやって抱いてもらえないと思っていたから……嬉しくて仕方がない。丈にだったら何をされてもいいと言ったのは本心だ。だから今日はもう何処までもとろとろに、俺を溶かして欲しい。
「もっと……してくれ……」
俺の口からこんなことが漏れるなんて信じられないが、こんなはしたないことを口走っては喘ぎ声をひっきりなしにあげ続けた。
躰の最奥めがけて放たれる丈の熱い情熱が、俺の躰の中にじわりと広がり、凍っていた俺の躰が、ようやくまた動動き出す。
「はぁ……あぁ熱い……丈の……熱いよ」
そうだ……こんなことが遠い昔にもあった。
凍ってしまった俺の躰を温めてくれたのは君だったのか。あの遠い過去の君も理不尽な目にあった後、こうやって抱いてもらったのだな。
丈がいなかったら、どうなっていたか分からない。
もう生きていられなかったかもしれない。
たとえ生きていても、心は死んだままだっただろう。
「洋……大丈夫か。泣いているのか、辛いのか」
「泣いてなんかいない。でも、もしも泣いているとしたら、またこうして抱いてもらえるのが、嬉しいからだ」
丈は静かに俺の顎を掴んで上を向かせた。俺が目を閉じると頬に涙がスッと伝い降りた。
「洋……私も嬉しい、君を抱けて」
俺の目じりに溜まる涙を、そっと口で吸い取ってくれた。
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