七夕スペシャル『願いの糸』管野&小森編

1/1
前へ
/1579ページ
次へ

七夕スペシャル『願いの糸』管野&小森編

前置き どうしても管野くんとこもりんの七夕も書きたくなってしまいました。 明日から通常運転でいきます。 *****  『笹の葉さらさら……』    僕は夜風に吹かれる短冊に、そっと念を送りました。  皆さんの願いが、どうか天高く舞い上がりますように。  そして仏様のご加護がありますように。  それから最後に、僕の願いも叶いますように。 「小森は何と書いたんだ?」  流さんに肩を組まれてがっちり押さえ込まれました。 「苦しいですよぅ」 「悪い、悪い」 「……言うのは恥ずかしいです」 「あんこ星人になりたいと? いやあんこ聖人か」 「違いますって」  流さん、驚かないでくださいね。  僕のお願い事は、なんと、あんこじゃないんですよ。  あんこは毎日おやつに出てきますが、管野くんとは毎日会えないのです。  それが寂しいので、お願いをしました。 『菅野くんともっともっと会えますように』  ちりん、ちりん  風鈴の音も聞こえてきます。    僕は日が落ちて涼しくなった夜風に吹かれながら、いつまでも短冊を眺めていました。 「お饅頭みたいにまあるいお月様、どうか僕のお願いを叶えてくださいな」  ご住職さまも流さんも、僕の祈祷を静かに見守ってくれています。 「小森くんは修行の成果が出ているね」 「そうでしょうか」 「あぁ、そうだよ。さぁ七夕のお祭りはこれからだよ。今日は流が流し素麺をしてくれるから、おいで」 「わぁ、風流ですね」 「皆と賑やかに過ごしたくてね」  竹を割って作った流しそうめん台に、さらさらと白い素麺が流れていきます。 「ご住職さまぁ、天の川みたいですね」 「そうだね。とても綺麗だ。さぁ、たんとお食べ」  ところがお箸を伸ばしても何も掴めません。  おそうめんはどこへ? 「あのぅ」 「あー ごめん! オレ腹減ってさ」  なんと! 薙くんが流した傍からペロリと食べていました。 「薙、独り占めは良くないよ。ちゃんと分けてあげて」 「分かったよ」  ご住職さまはすっかりお父さんの顔です。 「小森、元気ないな」 「……少しだけ、寂しいんです」 「そうか、だが案ずるな。ちゃんと誘ってある」 「えぇ? そうなんですか」 「小森がその小さな頭で考えていることは、お見通しさ」 「えへへ」  キョロキョロ辺りを見渡すと、そわそわして来ちゃいました。 「かんのくーん、どこですか」  竹林に向かって問いかけると、ちゃんと返事がありました。 「風太、待たせたな」 「管野くん!」  会社帰りの管野くんはスーツ姿です。 「七夕だから会いたくて、それに流さんからも流し素麺のお誘いがあったんだ」 「う……嬉しいです」  僕、どうしたんでしょう?  嬉しくて涙が…… 「ど、どうした? どうして泣くんだ?」 「あれ? 僕……何故泣いているのでしょう」 「あぁ、泣くな。よしよし」  管野くんが僕をギュッと抱きしめてくれる。  寂しいという感情が、ようやく分かりました。 「あんこ不足か? それなら天の川に見立てた羊羹を買ってきたよ。先に食べるか」 「違うんです。お願い事が叶ったから嬉しくて」 「七夕のか」  そうか、これは嬉し泣きというのですね。  僕は管野くんと出逢ってから、いろんな気持ちを見つけました。  ずっと迷子だった、僕の心、もう迷わないです。  コクリと頷いて、最初に書いた短冊を見せると、嬉しそうに笑ってくれました。 『菅野くんともっともっと会えますように』 「ありがとう! 風太、俺も短冊を書いてきたよ」 「わぁ、じゃあ吊しましょう。祈祷しますから」 「じゃあ、頼む」 『風太ともっともっと会えますように』  わぁ、一緒ですね。  その後、一緒に流し素麺をたらふく食べましたよ。トマトやチェリーまで流れてきて、すごく楽しかったです。  そうしたらお腹がいっぱいになったと、縁側で珍しく管野くんが転た寝をしてしまいました。 「小森くん、これを掛けておやり」 「ご住職さま、ありがとうございます」  ガーゼの肌掛けをそっと掛けてあげると、管野くんがむにゃむにゃと寝言を言っていました。 「管野くん?」  ほっぺをツンツンとすると、管野くんが幸せそうに微笑んでくれます。  わぁ、管野くんの寝顔にドキドキします。 「管野くん、僕は管野くんが大好きですよ」  管野くんの表情が緩む。 「ええっと……じゃあ、僕のことを好きな人はいますか」  おそるおそる聞いてみた。  学校では、僕を好きになってくれる人なんていませんでした。  だから……こんなことを自分から聞くの初めてです。  すると管野くんは寝ぼけながら大きな声で「はーい!」と手をあげてくれたので、僕はとってもとっても嬉しなりました。  まだまだ人の心に疎い僕ですが、管野くんと出逢ってから、人を恋い慕うことを知りました。 「管野くん、僕も大好きですよ」  耳元であんこのように甘く囁くと管野くんの目元に流れ星が通り、雫となって頬を伝い降りていきました。  それからギュッと手を繋がれました。 「あっ、起きていたんですか」 「風太……ありがとう。俺を好きって言ってくれて」 「管野くんも僕を好きだと言ってくれました。夢現でも……」 「当たり前だ。寝ても覚めても風太が好きさ!」  今年の七夕は最高です。  人と想いが通じ合う喜びを知ることが出来ました。  
/1579ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4246人が本棚に入れています
本棚に追加