光線 6

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光線 6

 俺を守るように抱きかかえてくれたのは……懐かしい……久しぶりに会う君だったのか。 「っ……Kai……な……んで? 」  叫びすぎて抵抗しすぎて、上手く声がでなかった。 「しっ……洋っ少し落ち着け」  確かに興奮状態からまだ冷めきらない呼吸は、はぁはぁとひどく荒れていた。恐怖で冷や汗が大量に流れ落ちたのだろう、背中がぐっしょりと濡れていた。そんな俺のことを、信じられないことにソウルにいるとばかり思っていたKaiが、毛布にすっぽりと包んで守るように抱き抱えてくれていた。  あ……もしかして遠い昔、こういうことがあったのか。  ふと蘇るヨウの記憶。Kaiがカイだった頃の追憶の記憶。  少し落ち着いたところで、ゴクリと唾を呑み込んだ。  確認しなくてはいけないことがある。さっき見た光景は幻だったのだろうか。  恐怖で目を覚ました途端に目に飛び込んで来たのは、あの日俺をソファに押し倒した義父の顔だったのだ。あまりに驚いて、そこから逃げたくて滅茶苦茶に暴れ、抵抗した。  あれは……義父じゃなかったのか。  状況が呑み込めず黙りこくっていると、Kaiが重い口を開いた。 「洋……悪かった。お前の苦しみの本当の理由、やっと理解できた。お前の心の闇……一番肝心なことを俺は知らなかった」 「Kai……?」 「さっき部屋に入る前に聴こえてしまった。お前があの男のことをお義父さんと間違えて錯乱していたのを。その時言った言葉を……だから知ってしまったんだ」 「あっ…」  義父に犯された身の上であること。Kaiに知られてしまったことは、不思議とそう打撃ではなかった。その言葉で陸さんと義父の顔がふっと重なった。そうか……あれは陸さんだったのか。俺は陸さんに向かって…彼が知らなくてもいいことを言ってしまったのか。そう思うと後悔した。だが……あの状況では仕方がない。 「それで陸さんは、どこ?」 「あぁ彼もかなり動揺していたから一旦、ロビーで待つように言ったよ、彼は何者? 洋を助けようとエレベーターの中で黒人と格闘していたよ」 「彼は……義父さんの実の息子なんだ」 「……そういうわけか。道理で似てると思った」 「でも……陸さんが俺を助けようと? 」 「あぁ、必死だったよ。お前さ。本当に気をつけろよ。他に何された?」  溜息を付きながら、Kaiが俺の赤く擦れた手首に触れた。 「あっ」  さっき辰起くんにされた酷い仕打ち、苦痛……何もかもお見通しなのか。Kaiには隠しようがないな、これじゃ。返す言葉が見つからず寂しく笑うと、Kaiが毛布を掛け直してくれた。 「まぁでも本当に無事でよかった。だいぶ落ち着いたみたいだな。さっきは興奮状態で手が付けられなかったぞ。さぁちょっと傷見せてみろ」  Kaiが毛布をはぎ取ろうとするので、思わず躰を固くしてしまった。 「いいっ! 大丈夫だ」 「おいっ変な気なんて起こさないから安心しろよ。俺はホテルのコンシェルジュとして、一応いろんなパターンで応急処置できるように訓練を受けているんだよ。だから恥ずかしがるな」 「え……でも……」 「じゃあ医務室の先生に診てもらうか」 「そ……それも嫌だ」 「じゃあ大人しくしろ、本気で心配なんだよ」 「うん……分かった」  ソウルにいると思っていたKaiが、どうして今ここにいるのか分からない。こんな都合良く現れ助けてくれるなんて、不思議な気持ちでいっぱいだった。Kaiが俺を心の底から心配して助けてくれた。それが現実だ。  あ、そうか……Kaiをここに遣わせてくれたのは、もしかして君なのか。  ヨウ……遥か彼方の遠い世界の哀しき武将のヨウ。  君の気配を暗闇の中で、俺は身近に感じていたことを微かに覚えているよ。
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