太陽と月10

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太陽と月10

「涼だけでも気持ちよくなれよ」 「あっ駄目っ……」 「しっ、洋が起きちゃうぞ」 「でt、でも……」  安志さんが僕を仰向けに寝かしたかと思うと、ガバッと覆いかぶさって来た。本当に恥ずかしい。安志さんが落としてくれたキスが気持ち良くて、余韻が収まらなかった僕の躰。  僕を抱きしめる安志さんの逞しい腕。  僕が息をするたびに僕の胸を掠めていく。  背中に感じる胸板の厚みも、何もかも男らしく精悍なんだ。  それでいて、竹を割ったような性格で…本当に素敵な大人の男性。    僕が大好きな人だ。そんな人からあんなに熱いキスを受けとってしまえば、僕の熱が収まるはずないじゃないか。  横向きのまま抱きしめられたのでじっとしていると、暫くして安志さんから規則正しい寝息が聞こえて来た。  えっ……もしかして本当にもう寝ちゃったのか。そっかぁ……幾らかの落胆の後、僕も目を瞑って懸命に寝ようと心掛けたけど、躰は反比例してしまう。寝息がうなじをかすめて行けば、僕の躰は熱に震えた。  わっなんかエロいよ、この状況。  勝手に一人で焦ってしまう。  いつのまに僕のものが張り詰めて、薄いパジャマのズボンをどんどん押し上げてしまう。  こんな姿見られたら……でもっ……くっ。  自分で処理しようか。このままじゃ眠れない。  安志さん助けてよ。そう思って振り向いても目を閉じて眠っている。  これじゃまるで拷問だ。とにかくこんな状況になってしまっては、もう自分でするしかない。そう決心して手を添えようと思った瞬間、突然安志さんの大きな手のひらに包まれた。 「あっ……あ…」  ズボンを下着ごと一気に降ろされてしまって、露わになった躰が恥ずかしい。安志さんの視線を辿れば、この後何をされるかすぐに理解できた。 「それは……駄目だ、汚いよ」 「何言ってる? こんなに可愛いものなのに」  安志さんの精悍な顔に真っすぐに見下ろされたら、抗えない。  あっ……でも洋兄さんがすぐ傍にいるのに。万が一起きたら……そう思うと怖くなる。 「涼、集中して。洋は起きないよ。あいつ一度寝たらぐっすりなんだ、今日は酒も入っているから、絶対起きないから安心して。ほら出していいんだ。こんな状態じゃ眠れないだろ」 「……でも僕だけなんて、いやだ」 「いいんだよ。俺は」  そのまま下半身へ降りて来た安志さんの口に一気に含まれてしまい、動揺した。口に含んだ後は舌先で舐められ、這われ……強弱をつけて絞り出すかのように動かされてしまえば、たまったもんじゃない。 「あっ…あ…出ちゃう! 出ちゃうよっ」 「いいよ、吸ってやるから」 「そんなっ」  安志さんにそんなことを……でももう止まらない。  ジュッジュッと弱い部分にリズムよく吸い付かれてしまえば、もう限界だった。  下半身が痙攣したかのように震え……爪先が丸まって、弾けるような感覚が押し寄せて汗がどっと噴き出していく。  ゴクッ……  暫く呆然としていたかもしれない。安志さんの喉の動きと嚥下する微かな音で、我に返った。見下ろせば……安志さんは手の甲で唇をさっと拭っていた。 「涼、よく出来たな」 「ひっ…ひどいよ…恥ずかしい」 「なんで? 最高に可愛いのに」 「でも……僕だけじゃ」  きっと安志さんも…そう思いそっと安志さんのものへ手を這わすと、さっきの僕の状況と同じになっていた。 「あっ安志さんも」 「あっやめろっ。それ以上触るなっ。俺はいいからっ」  手首を掴まれ制止されたので、僕もムキになってもう片方の手で触れた。 「僕もするっ」 「わっ!よせって!」 「あーーーコホンっコホン」 安志さんが大きな声を出したのと同時に、控えめな咳払いが聞こえた。 ベッドから…… って? えええっ! 二人で焦って顔を見合わせると低い声がした。 「お前達さ……俺……起きてんだけど」 「わっ! よっ洋、いつから」 「はぁ……目……瞑ってるから、早くどうにかしろよ」 「そんなの無理!!!」  安志さんと声を合わせて叫んでいた!  全く洋兄さんって人は、何を言い出すんだ!! ****  喉の渇きは収まったのに、頭が金槌で叩かれているようにガンガンしている。  それにしても、さっきから遠くで声を殺して泣いているのは誰だ?  あっこれって涼の声だ。小さな涼が泣いているんじゃ。最初はあの船の上で泣いた小さな涼を思い出していた。でも途中からどうも様子が違ってきた。  泣き声じゃない。これって喘ぐような声だ。ってことは……この声ってまさか。そう思うと、もうその声にしか聞こえない。耳だけがどんどん音に集中してしまう。 「あっ……あ…」 「駄目だ!それ……汚い」 「大丈夫だよ。こんな可愛いんだから」 「あ……ん…んっ」  次第に安志の声まではっきり聞こえて来て、耳まで赤くなってしまう。安志と涼が横でし始めたことを容易に想像できてしまう。  どっどうしよう! どうしたらいいんだ。    流石に幼馴染と従兄弟の情事を目の当たりにして、動揺が走る。  そうだ……もう一度眠ろう!  見なかったふり、聞かなかったふりだ。    だがそう思っても眠れるもんじゃない。こんな状況でさ。  涼の声がどんどん大きくなってきて、やがて弾けたようだった。それが卑猥に聞こえて、自分のものまでおかしくなりそうだ。  とにかく目を瞑りやり過ごそうと思ったのに、涼が今度は安志もだなんていうから、もう限界だ、耐えられなかった。  幼い頃からの幼馴染の安志のそのシーンは流石に無理。  見ること出来ないし……聞けないよ。  安志は……安志は俺にとって大事な場所なんだから。  あーコホンっ、コホ……  勇気を出して控えめに、起きていることを知らせるための咳払いした。いい所で行為を中断させるのは忍びないが、しょうがない。案の定、二人は飛び上がる程驚いて、安志は決まり悪そうな表情で、そのままトイレに消えて行った。  その後ろ姿に苦笑し、同時に悪いことしたなぁと思った。  久しぶりの逢瀬だったのに、俺が深酒して酔って急に泊ってしまったのか。ふたりとも悶々としてしまったようだ。  涼の方も恥ずかしそうにパジャマの乱れを直して、俯いていた。 「よ……洋兄さん……いつから起きてたの。酷いな……」 「ごっごめん。俺こそ悪かったな、邪魔して。でもさ……流石にこれ以上は」 「分かってる。わーもう言わないで」  枕にうつぶせになって、涼が泣きそうな声をあげた。その様子が可愛くてこんな状況なのに微笑んでしまった。そして震えるその栗色の髪の毛をゆっくりと撫でてやった。 「大丈夫だよ。涼、すごく安志に愛されているんだな」  自然と答えが見つかった。  もう大丈夫だ。  安志には涼がいて、涼には安志がいる。この二人が結ばれてくれて本当に良かった。  大事な幼馴染と大事な従兄弟。いつかは俺の傍から離れていってしまうような気がして、寂しかった。でもその二人が結ばれるということは、安心で嬉しいことなんだな。  二人の愛し合う瞬間をこんな形で見てしまったが、自分の心と向き合えた瞬間でもあった。 「本当に安志と涼がいてくれてよかった。いつも傍に、これからも二人一緒に俺の近くにいて欲しい」  こんな願いを抱くなんて図々しいか。  でも君たちは、俺の大事な家族のような存在だ。  もう父さんも母さんもいない俺のことを、いつも明るく照らしてくれる。  もし俺が月ならば、君たちは太陽だ。
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