太陽と月11

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太陽と月11

「おはよう! もうこんな時間だよ。二人とも起きて!」 「んっ……」  涼の明るい声から始まった、どことなく気恥ずかしい一日の始まり。それでも、爽やかな涼の笑顔が降り注ぐおかげで、幸せな気分になれた。寝起きからこんなにキラキラしているなんて、涼はやっぱり若いな。  結局あれから二度寝をしたせいか、三人でかなりの朝寝坊をしてしまい、昼近い時間にようやく朝ごはんを食べることになった。食後……洗い物の手伝いをしていると、安志が気まずそうに声をかけて来た。 「洋……二日酔いにならなかったのか」 「あぁ大丈夫みたいだ」 「その……昨夜のこと……だけど」 「え? 」 「その……あの……」 「あぁそれは寝ぼけていて、はっきりと覚えてないから心配するな」  うーん流石にちょっと無理があるが、真面目な幼馴染を気遣ってかける言葉は、これしかないだろう。 「そっそうか! ならよかった」  心底ほっとした安志の表情は分かりやすい。本当に昔から嘘をつけない奴なんだ。 「洋……それからあのさ、さっきうちの親から電話あって」 「あぁそういえばさっき電話が鳴っていたね。安志のおばさんからだったのか」 「そうそう、なんか洋が入籍する時には、自分も駆けつけるって張り切っていて驚いた。いつの間に、うちの母にカミングアウトしたんだ?」 「あっうん…実は、そうなんだ。成り行きで……」 「そっか、母さん驚いていたか」 「……多少ね」 「でも受け入れたってことだよな」 「安志のおばさんは、理解あるな」 「あーそういえば母さんは昔からちょっと変態だからなぁ。昔はよく洋と俺をくっつけようとしてたんだぜ。腐った妄想族だよ。ははっ」 「えっ!」  思わず声が上擦ってしまった。 「くくくっ冗談だよ。洋みたいな綺麗な女の子と結婚して欲しいって言ってたんだ。孫の顔を見るのが楽しみだからって」 「……そうか」  その言葉に胸の奥がズキンとした。安志の方も、軽い気持ちで口に出してしまったのだろうが、はっと神妙な顔つきになった。それもそうだろう。涼のこと……この先どうするつもりなんだろう。おばさんも俺が丈というのは理解できても、流石に自分の息子となると話も違うだろう。  なんともこれは……悩ましい問題だ。そのまま考えこんでしまった安志の肩をポンポンッと叩いてやった。 「安志、七日はおばさんには、涼は俺の大事な従兄弟だって紹介するから、心配するなよ」 「あっ……うん」 「安志、焦るな。焦って何もかも台無しになったら困るだろう」  俺にとって大事な従兄弟と大事な幼馴染。本心から二人がいつまでも仲良くいられますように、そう願っている。でも物事にはタイミングがあって、何もかも二人で先走るのは危険なんだ。  きっとうまく走り出す時がくる。  そう思うから出た言葉。  安志は……涼は……素直に受け入れられるのだろうか。 「そうだよな。俺も涼のことをしっかり考えていきたい。この先もずっと。だからこそ軽はずみなことはしたくない。洋の式では、まだなにも事を起こすつもりはないよ」 「うん……分かってる」  その時、ガシャンと後ろでグラスの割れる音がした。
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