『蜜月旅行 91』終わりは始まり

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『蜜月旅行 91』終わりは始まり

 先に岩場に上がった流が、真っすぐに手を差しだしてくれた。 「翠、岩場に上がれるか」  その手に掴まると、ぐいっと海中から引き上げられた。ぽたぽたと躰から滴を垂らしながら見渡すと、そこは昨日のような自然の岩場ではなかった。どことなく整備されており遠くにはデッキチェアまで置かれている。 「ここは?」 「ホテルのプライベートスペースなんだ。予約制のな」 「えっ……そんな話聞いていない」 「あー丈たちに話すと付いてくるだろう。俺は翠と二人きりになりたかったんだ。少し待っていろ。手続きをしてくるから」 「はぁ……流は全く」  年下の流の甘えたような言い方に、僕は何も言い返さない。旅行は間もなく終わってしまう。残された時間は流がしたいように過ごしてあげたかった。  制約が多いのは僕の方だ。  北鎌倉に戻れば間もなく秋がやってくる。秋になれば、息子の薙を引き取る約束を妻としている。  流……ごめん。僕は不器用な人間だ。あれもこれも効率よく要領よくこなせない性分なのは、知っているよな。  帰ったら……流にちゃんと抱かれることが出来るだろうか。素直に躰を渡せるだろうか。  流には期待させるようなことを言ったが、やはり自信がない。 「翠。こっちだ」  あれこれ考えながら俯いていると、流がタオルと飲み物を持って戻って来た。 「なんだか外国のようだな」  流の話では、ここは小さな小島で二時間単位の時間制で貸し切れるそうだ。入り口にはホテルのスタッフがいて、飲み物やバスタオルを用意してくれる。  プライベートスペースはその真逆の岩場で、シェードで覆われてスタッフからは見えないプライベートな空間だそうだ。  僕はこんな洒落たところに縁がない生活をしていたので、思わずキョロキョロしてしまう。それに引き換え、流は慣れたもんだ。 「ほら翠、ぼんやりしていると、転ぶぞ」 「あ……うん」  デッキチェアが二つ海を臨む位置に並んでおり、立派な真っ白なパラソルまである。テーブルにはカットフルーツが綺麗に盛られていた。明らかに男二人で来るには違和感がある空間に驚いてしまった。こういうシチュエーションには見覚えがあった。 「流……これってもしかして……新婚さん用じゃないのか」 「あーまーそういうことだな」 「ばっ馬鹿! 恥ずかしいだろう! こんな所を男二人で利用するなんて。ホテルの人に変な風に見られたらどうするんだ」 「細かいこと気にするなって。翠は昔からそういうとこあるよな。さぁ座ろう」 「う……」  そんなに神経が細かいつもりじゃないけれども、流に言われると思い当たる。 「翠、喉乾いただろう。ほら飲めよ」  差し出されたのは南国宮崎ならではのマンゴージュース。太陽を浴びたフレッシュな色だ。 「トロピカルな味だね」 「ふっこれは官能の味とも言うんだよ。ほらカットマンゴーも食べろ」  フォークにマンゴーをひと切れ刺して渡される。口に含めば甘く濃厚でトロリとした味わいで、舌で溶けていく。 「美味しいな」 「そうか良かった、それにしてもエロいな。それ」  流が少し赤面し、その視線が胸元に降りてきたので、はっとする。濡れたTシャツがさっきと同じように胸元にぴたっと貼り付いてしまっていた。自分で見ても、乳首の部分がうっすら透けているのが分かる。  今までそんなこと気にしたこともなかったのに、流に何度も弄られた場所だと思うと恥ずかしい。ましてこんな太陽の下で見られるなんて。それに僕の乳首はこんなに赤かったか、流にきつく吸われ続けて充血してしまったのか。  ギシっ  そんな音を立て、流が僕のデッキチェアにやってきて、僕に跨る。 「なっ……何?」 「よく見せて」  流が僕の肩を両手で背もたれに押し倒し、胸元に顔を近づけて来る。パラソルの間から、南国の陽射しが射し込んでくる。  どこか非現実な世界だ。そんな時空を超えたような気分になり、僕は逆らわずに流に身を任せる。  布越しに、尖った部分を舌で吸われた。ピリリと疼く。そのまま転がされたり吸われたり……あぁ……気持ち良くておかしくなりそうだ。 「やめ……ろ、駄目だって」 「翠はさっきもキスだけで尖っていたよな。もう、ここで感じるようになってくれたのか」 「言うな……そんなこと」  男なのに乳首で感じているなんて、改めて言われると羞恥で消えたくなる。  ずっと女性を抱く方しかしらなかった。  抱かれるということに未だ慣れない躰に違和感を持ちつつも、流によって切に望まれていることに悦びも感じていた。 ****  デッキチェアに横たわった翠の肢体。Tシャツは胸元に貼り付いて淡い色の乳首がうっすら透けて見えている。  引き締まった下腹部、しなやかな太腿の柔らかな曲線。  じっと見下ろしていると、ベッドの上で生まれたままの裸体を俺に惜しみなく晒してくれたことを思い出し、俺の下腹部に熱が集まり出す。  こんな場所で駄目だ。ここでは翠を少し弄るだけ。そう最初は思っていたのに……制御できなくなりそうだ。昨日挿入できなかった俺の屹立は、どんどん元気になっていくのを感じていた。  ヤバイ── 「流、どうした?」 「いや……」  翠より先にはまずい。  そんな意地で、翠にがばっと襲い掛かる。 「んあっ!」  びくっと驚く翠の両手を頭上で絡めとり、翠のTシャツの下から手を差し入れて下腹部、胸、鳩尾、腰骨と優しくとろけるような気分で、撫でまわした。 「んっ……あ……っ」  翠はもう抵抗はしない。それでも絡めとった手を離してやることができなかった。 「流……どうして? 僕は逃げないのに」  なんでだろう。翠が俺のものだとこんな形でも感じたいのか。乱暴なことはするまい。そう思っているのに止められない。  翠の水着のゴムに手をかけようとすると、慌てた翠に制された。 「流……待て。こんな場所ではっ」  薄い色合いの水着に手をあてると、翠の屹立が押し上げているのが分かった。感じてくれているんだ。俺の愛撫でこんなに硬くなるまでに。そっとその形を辿るようになぞってやると、翠の腰が切なげに揺れた。 「あ……ダメだ」 「逃げるな、翠」  翠の頬が薔薇色に染まって発情しているのが分かった。胸元までたくし上げられたTシャツ。下腹部のラインがすべて見える薄い水着。なんて淫らなんだ。今日の翠は、裸とはまた違う色っぽさだ。  薄い水着ごと翠の屹立を、この手で握り込んだ。 「くっ……や……」  歪む翠の表情に一瞬洋くんの顔が浮かんだ。顔立ちが似ているわけでは決してないのに、醸し出す雰囲気が似ているのか。  それにしても……丈、俺達は今、きっと同じことをしているんだろうな。  兄弟だよな。お前と俺は求めるものが似ている。今まで縁の薄い兄弟だと思っていた丈に、親近感を覚えることが多くなった。 「翠、やはり我慢できないようだ。声は出来る限り我慢して」 「……そんなの無理だ。やっ……」
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