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有明の月 4
「翠兄さんが見つかったんですね。無事ですか。はい、はい分かりました。本当に良かった!」
二度目の電話は、丈の腕の中で聴いた。
丈の早まる鼓動を、背中で受け止めながら。
流さんとの通話を終え、丈は安堵の溜息をついた。
丈の仕草から……俺も翠さんの無事を確信できた。
「翠さん……無事に見つかったのか」
「あぁ宇治の廃屋で倒れていたそうだ」
「えっ翠さんが倒れて? 救急車を呼ばなくていいのか。丈が行かなくていいのか」
倒れたという言葉に過敏に反応してしまうと、丈が甘く笑った。
「ふっ……洋、お前可愛いな。意外と初心だ」
「なっなんだよ」
「翠兄さんには、特効薬が届いただろう?」
「え……あっ……丈、お前もしかして、まさか……気づいていたのか」
翠さんと流さんは血の繋がった兄弟だ。その事を丈がどう感じるか分からない。緊張が走った。
「……流兄さんの必死な様子に流石にな。前からまさかとは思っていたが、やはりそうなのか」
少し戸惑い気味な表情なのも、もっともなことだろう。丈にとっても血の通った実の兄たちだ。その兄同士が愛しあっているのだから。
「そういう洋は気が付いていたんだな、もっと前に」
「う……ん、でも俺からは言い出せなかった。だから丈が気づくのを待っていた」
「そうか。まぁ……昔からあの二人の間には特別な空気が流れていたから、自然と納得できた。いろいろ辻褄があった。だが……いつからだ、いつの間にそういう関係に?」
「いにしえの……」
「いにしえ?」
「うん、丈と俺がそうであったように、お兄さんたちにもいにしえからの縁があったんだ。それが今回の京都への旅の目的でもある夕凪を囲む、丈の曾祖父の世代の話だ」
「そうなのか……だから翠兄さんはあんなに必死に夕凪の行方を追っていたのか」
「夕凪は俺ともつながっているから……不思議な因縁だよ、まったく」
「洋は……」
そこまで言いかけて、丈は苦し気な表情を浮かべ……会話をやめた。
「丈?どうした」
いきなりそのまま身体を反転され、ベッドに仰向けにされた。
手を絡めとられ、頭の横にギュッと固定される。
思わず身体が強張ってしまう。
丈に必要以上に力が入っていた。
「なっ何?」
「もうこれ以上はいい。私の洋は私のものだ。もうこれ以上……過去の悲しみを背負わないでくれ。洋……君は抱えすぎている。いろんなものを」
「丈……」
丈がそんなことを言うなんて、驚いた。
でも伝わって来た。
ヨウのことや洋月の君の想いだけでも精一杯だったのに、さらに夕凪の想いも抱えていると知って、心配しているのが分かる。
ヨウにはジョウが、洋月には丈の中将がいた。
では夕凪には誰がいたのだろう。
やはり丈のような存在がいたのか。
いや、もうやめよう。
これ以上は探求しなくてもいい気がした。
何故なら、俺たちはもう固い絆で結ばれているから。
「丈……大丈夫だよ。俺は俺だ。丈を今この世で愛しているのが俺だから」
唇をそっと合わせた。
丈からも俺からも求め合った。
それが合図。
緊張していた身体から力を抜き、丈を今宵も受け入れる合図を送った。
「抱いていいか」
「もちろんだ……深く強く抱いてくれよ。俺がどこにも行けないように、行かないように……」
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