僕の光 7

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僕の光 7

 翠さんの治療が始まったので、俺と薙くんは部屋から出て談話コーナーで待つことにした。 「洋さん……ねぇ、まだかな。遅いな」 「そうだね……薙くん。何か温かいものでも飲もうか」 「あ、それならオレが買ってくるよ。少し歩きたい」 「分かった。じゃあ、お金を」  薙くんが自動販売機へ向かうと、反対側から丈がやって来た。  「丈! どうだった? その……無事だったのか」  薙くんが丁度いなかったので、丈は小声で翠さんの容態を手短に説明してくれた。 「あぁ……最悪のケースは免れていた。アイツの痕跡はあったが中まで直接の挿入はされていなかった。ただ指で弄られた形跡はあったので、綺麗に消毒しておいた」  丈は俺が聞きたかったことを察して、包み隠さずストレートに話してくれた。 「そうか……それはショックだったろう」 「……躰は最後まで傷ついていなくても、かなり心が傷ついているはずだ。手首の擦り傷が深かったので治療しておいた。精神安定の点滴を今はしているが、明日には退院できるだろう」 「分かった。教えてくれてありがとう」  そのタイミングで薙くんが戻ってきた。 「あっ丈さん……父さんは?  父さんは無事だった?」 「多少手首に怪我をしたが、それ以外は無事だったよ」    それだけで薙くんは全て察したのだろう。ほっとした表情を浮かべた。 「よかった……父さん。今日は入院するんですよね? オレ、帰る前に父さんに会いたい」 「分かってるよ。さぁおいで」 ****  はっと目覚めると、病院のベッドに寝かされていた。  つい先ほどまで、僕はまるで揺りかごのように落ち着く場所にいたのを覚えている。    「流……」  抵抗した時に必死に叫び過ぎたのか……枯れた声だった。そのことに自分で驚いてしまったが、すぐに流が僕の手をしっかりと握ってくれた。 「翠、気が付いたのか。ここは丈の勤めている病院で、今日は特別に個室に入院させてもらうことになった」 「……そうか、丈も来てくれたのか」 「兄さん気が付いてよかった。早速ですが、躰の状態を診せてもらってもいいですか」 「……うん」 「俺はカーテンの向こうで待つからな」 「流兄さんすいません。すぐ終わりますから」 「……お前で良かったよ。お前以外の人には絶対に診せたくない」  弟に恥ずかしい姿を見せることになったが、丈になら……すべてを託すことが出来た。だってお前は洋くんのことで重いものを背負っているから。育ての親に最後まで犯されてしまった洋くんは、僕よりももっと辛かった。 「んっ……」  実の弟に下半身を診察してもらい、内股や入り口に付着していたヌルっとした液体を採取された。その後は温かいタオルで全身を隈なく拭いてもらい、躰の奥……内部をしっかりと医療器具を使って念入りに洗浄してもらった。  克哉の痕跡を、丈は最大限に気を遣って、綺麗さっぱりと洗い流してくれた。 「翠兄さん、これで大丈夫、もう何も問題ないです。……入口には幸い裂傷はありませんでした。手首の傷は暫く痛むでしょうが」  その言葉に心底安堵した。下半身は無事だった。克哉のモノだけは絶対に受け入れられないと抵抗したから……それだけでも救いだ。   「……よかった」  口に出してみると初めてしみじみと、僕は無事に流のもとに、月影寺の皆の元に戻って来られたと実感できた。 「……薙に会いたい」 「えぇ、彼もとても心配していましたよ。談話コーナーで待っているので、呼んできます、洋も一緒でいいですか」 「もちろんだよ。僕も洋くんに会いたい。彼とは駅で会ったのに、僕は逃げるような真似をした」  申し訳ないことをしてしまった…… 「いや、あの時、洋と会えてよかったです。あのキーホルダーを兄さんが持っていてくれたので、居場所を掴めたんですよ」 「キーホルダーって、あの洋くんがドアが閉まる直前に投げた三日月の?」 「そうです。あれには小型GPSを搭載していたから、あのマンションを突き止められたんです」 「なんと……そうだったのか。それじゃ洋くんのおかげだな」  そうか、だから…… 「洋は安志くんからもらったようですが」 「僕が助かったのは、みんなの力が集結したからだったのだね」 「兄さんが無事で良かったです。本当に……私こそずっと無関心で兄さんのこと何も理解できていなくてすいませんでした。ずっと苦しんで抱えていたのに」 「いいんだよ。僕が自ら選んだ道だったのだから」  丈に事情を話してもらっていると、カーテンの向こうかイライラした流の声が届いた。 「おい、もういい加減に入っていいか」 「ええ、どうぞ、流兄さん。お待たせしました」 「それで、翠の容態は? 」 「幸い……無事です。心配した件は避けられました」 「そうなのか、本当に良かった」  あぁ……流のほっとした声を聞けて良かった。 「では、少し二人でいてください。私は、洋と薙くんを呼んできますから」 「分かった」  丈が部屋から出た途端、流はもう待ちきれない様子で、僕に口づけをした。  流の暖かな唇に、心も躰も無事に戻って来られたことを噛みしめられた。 「んっ……ふっ」  流の口づけは止まらない。  激しく降る雨のような獰猛なキス。  流の感情が伝わってくる。   じんじんと強く、深く!  流は大人になった。いつの間に……    僕が流を頼らずに自ら克哉の元へ飛び込んでしまったことも、危険な目に遭い多大な心配をかけたことも……どうして責めない? 「……翠が無事で良かった」  ただただ僕の躰を案じ、僕を一心に求めてくれる。  それが今の流だった。 「流……なぜ怒らない? 僕は……怒って欲しいのに」  
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