聖夜を迎えよう8 ~安志編~

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聖夜を迎えよう8 ~安志編~

****  会場に戻ると、ちょうど抽選会が始まるところだった。  一等はこのホテルの宿泊券だそうだ。  それ、欲しい!  安志さんと、このお洒落なホテルに泊まったら……つい頭の中で妄想してしまう。ホテルの夜景を見ながらとか、いつもと違うシチュエーションって、どんな感じだろう。そんなお洒落な大人っぽいデートはしたことがないので、興味津々だ。  当たれ!っと心の中で念じたが、あっけなく僕は違うものを当ててしまったようだ。 「じゃあ~次は18等。これは……プププ。えーっと、15番は誰かな」 「あっ僕です!」 「えぇぇ……これ涼くんに当たっちゃったの? うわー! いいのか。 まぁ……いいか。はい、どうぞ!」  妙に司会のスタッフに大袈裟に騒がれて『?』マークが頭に沢山浮かんでしまった。手渡された可愛い包みの中には、細長い箱が入っていた。 「涼、何を当てた?」 「んーなんだろう? みんなは驚いていたけれども、結局中身は教えてもらえなかった」 「ふーん、見せてみろ」 「あっ!」  陸さんに取り上げられて、中身を見られてしまった。すぐに陸さんはぷはっと噴き出した。 「くくくっ、お前にぴったりのもんだよ。好奇心の塊のひよっこにさ!」 「なんですか。それ!」  取り返して中身を覗くと、抹茶色の物体で……何かのおもちゃみたいだった。なんだ、これ? 「陸さん。これって、何ですか」 「くくっ、そうか、やっぱり知らないよな」 「何に使うんですか」 「それ、俺に聞く? 彼氏にしっかり教えてもらえよ」 「え?」  そんな会話をしていると、抽選はいよいよ1等の番になっていた。 「1等はジャジャジャーンっと14番です! 誰が当たったでしょうか」  14って、僕の前だから陸さんだ。  陸さんが1等の宿泊券を当てた! すごい! ****  忘年会もお開きになり帰ろうとすると、僕のマネージャーが飛んで来た。 「おっと~帰っちゃ駄目だよ! 涼はこのままこのホテルに宿泊になったから。明日は直接ロケに行くからね」 「えっ……そうだったんですか……聞いてなかった」 「ごめんごめん。明日のロケは開園前に撮影だから早朝なんだ。今日はもう速攻寝てね」 「はい……」 「これ明日の衣装ね。あと今日の泊り道具一式」  マネージャーに、客室のカードキーと荷物を渡された。  そうか……今日は家に戻れないのか。安志さんに連絡出来るかな。このままここに泊まって、明日はロケに直行だなんて、本当に息をつく暇もない。これでは、まるで軟禁状態だと苦笑してしまった。  そんな俺の様子を見ていた陸さんが、またポンっと背中を優しく叩いてくれた。 「涼は頑張ってんな。すっかり売れっ子で頼もしいぞ。でも、無理すんな。年末年始は洋に会えるんだろう? 身内に甘えて来いよ。さてと俺はもう帰るよ」 「陸さん、帰るって? まさか、もうNYに帰ってしまうのですか」 「あーちょっと目的が逸れたからな。それにさ、今年のクリスマスは久しぶりに両親と過ごしてみようかなと急に思ったんだ。柄にもなく、そんな気分なんだ」    空さんに会えないことが、やはりショックだったらしい。 「それはいいですね。本当は僕もNYの両親の元に帰らないといけないんですが、出席日数とテストがまずくて……今年は無理そうです」 「そうか、学業を疎かにするなっていっても、まぁこの売れっ子状態じゃしょうがないよな。俺も大学に途中から通えなくなったから分かるよ。学業とモデルの両立は大変だが、頑張れよ。それと彼との仲もな!」  耳元で囁かれウィンクされた。   「陸さんっ、もうっ」 「ははっ、じゃあまた会おう!」  別れ際に陸さんが思い出したように僕を呼び止めた。 「そうだ、涼にこれやるよ! 恋人と、たまにはゆっくり過ごせ」  渡されたのは、さっき陸さんが当てた1等の宿泊券。 「えっ、でもこれ」 「……今の俺には必要ないものだ。涼、幸せはちゃんと掴まえておけよ。定期的なご褒美も大事だぞ。年上だって、甘えたい時があるもんだ。……まぁ俺も人のこと言えないが」  まるで陸さん自身のことのように感情が籠って、とても優しい笑みを浮かべていた。  陸さんとの久しぶりの再会は、爽やかな時間だった。  洋兄さんに会ったら、すぐに伝えよう。陸さんの充実した笑顔のこと、モデル時代よりもっと輝いて優しくなっていたと。  それから僕の大切な安志さんにも伝えよう。  僕たちの休暇の提案を……初めてのふたりでのホテル宿泊を実現させようと。  早く安志さんに会いたい。  夜になれば、いつも願うこと。  僕の焦れた躰と心を、早く届けたい。  早く……クリスマス・イブになれ!
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