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2023年 特別番外編『Happy Halloween 月影寺』①
寺の門を閉めて、ようやく一息付けた。
「今日も忙しい1日だったな」
袈裟姿のまま、ふらりと離れに向かう。
空にはとても美しい月が浮かんでいた。
研ぎ澄まされた空気を肌に感じ、結界がしっかり張れていることを確信できた。
まだ夜風が涼しく心地良く感じるが、11月になればグンと冷え込むだろう。
「よし、今日は特に念入りにしないとな」
その理由は、流が張り切っていたから。
「流、お待たせ。さぁお望み通り、ハロウィンの衣装に着替えるよ」
覚悟を決めたからには動じるつもりはなかった。
この2週間ほど、流が夜なべして作っていた衣装が何かは知らないが、僕はどんな衣装でも着てみせるつもりだ。
流の楽しみは、僕の楽しみでもあるからね。
ところが、並んでいる衣装にはて?と首を傾げた。
「流、それで、衣装はどこ?」
流が振り返ってニヤリと笑う。
「じゃ、じゃーん、今年の衣装はこれだ」
「ええ? 衣装? これは……肌着だろう?」
「いや、これで正解だ」
「ええ? えっと……」
「だから言っただろう。今年のテーマは事前にちゃんと知らせておいたぞ」
「あっ、エロ……っ!」
「そう、エロい衣装にしたんだ。さぁ兄さん着てくれよ」
「こんな時だけ兄さんと呼ぶなんて反則だ」
「兄さん。頼む!」
ううう、断れない。
可愛い弟の頼みだ。
薙は友達とハロウィンパーティーをして来ると言っていたので、帰って来る前に、今のうちにサクッと着るべきか。どうせ断り切れないのだから。
意を決して袈裟を脱ぎ出すと、流が興奮して唸った。
「こら、まだダメだ!」
「ウォー この日を夢見ていたんだ」
しかし……なんて心許ない衣装なんだ!
こ、これは誰にも見せられない。
ほぼ裸同然。
尻には尻尾まで。
あぁ、でも可愛い黒ネコちゃんなのは救いだ。
「ど、どうかな?」
流は案の定、鼻を摘まんでしゃがんでいる。
はぁ、鼻血か、また……
「ヤバいって!エエエエ、エロい、エロすぎる。オレって天才か」
「りゅーう、馬鹿なこと言ってないで、もう脱いでいい?」
「ダメだ。それは洋とお揃いなんだ。だから庭で記念撮影を取ろうぜ」
「えぇ? この格好で出歩くのは無理だ」
「結界はしっかり張ってある。だから大丈夫だ」
「うう」
僕はしぶしぶと外に出た。
うう、裸同然なので寒い。
すると流が僕を抱きしめてきた。
「暖めてやるよ」
「ば、馬鹿。こんな所でダメだ。僕は走るっ!」
なんとか母屋に到着すると、茂みの向こうから丈と洋が歩いてきた。
洋くんの姿は……うわぁ、僕よりエロいんじゃ?
月夜にパンツ一丁で堂々歩いてくる洋くんの姿は白猫だった!
洋くんの美しい顔だけでも色気満載だが、身体からも色気が滲み出て猛烈なエロスを感じた。
「翠さん! 本当だ。俺とお揃いなんですね」
「ううう、そうみたいだね。洋くん、君は恥ずかしくない?」
「恥ずかしがると丈が喜ぶだけなので堂々としているんですよ。それに今日の結界は一段ときつく張られているから、誰にも見られませんしね」
「まぁそれはそうだけど……なんともいたわしい……」
「いや、翠さんも同類ですから」
母屋の玄関で、お互いパンツ一丁。
身体が揺れると尻尾もゆらゆら。
流の視線は僕の尻に。
丈の視線は洋くんの尻に集中しているのを感じて苦笑した。
その後、記念撮影もした。
「まぁ……なんというか……大人なハロウィンだね。こんな格好は薙には見せられないよ。そろそろ戻ろう」
その時、突然、山門から声が聞こえてきた。
誰だ? 結界をすり抜けて来たのは?
僕はビクッと肩を揺らした。
洋くんも丈も、流石の流も焦った顔をして固まった。
「もち、もーち、おかちをくだちゃーい。くれないといたずらしちゃいましゅよ。きょうははろりーんでしゅよー」
「トリックオアトリート! お菓子をください」
ひぇぇぇ、エンジェルズがやってきた!
予期せぬ可愛い訪問に、僕たちは真っ青になって茂みに隠れた。
ど、ど、ど、ど、どうしよう!
続く🎵
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