手紙~拝啓十五の君へ~

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手紙~拝啓十五の君へ~

 全校生徒、五人。  私たち仲良し五人組、無事、高校進学が決まった。  私たちが卒業すると、この中学は閉校。隣り街の中学と合併する。  そんな仲良し五人組だけど、進学先は、みんな別々の高校になった。  中二になった当初、私たちは非常に成績が悪く、担任だったアンジェロ・多岐(タキ)先生には、随分と心配をかけた。  でも、先生は、私たちを見捨てることなく、励まし、とことん寄り添ってくれた。  そのおかげで、私たちはグレることもなく、ちょっとずつ成績を伸ばし、中三になる頃には、勉強が好きになっていた。  高校受験を無事終えられたのも、勉強を好きになるきっかけをくれた、アンジェロ・多岐先生のおかげだ!  多岐先生は、私たちが中三に上がるとき、ご実家の漁業を継ぐことになり、北海道に帰られた。  放課後、私たちは、教室で、FMラジオを聴きながら、おしゃべりをしていた。そのとき、多岐先生に、高校合格の報告をしようよという話になり、手紙を書くことになった。  それぞれに、思いを手紙に書き、五人で写真を撮った。 「せっかくだから、おもしろいのも撮ろっか?」 「そだね~!」  すると、ちょうど、ラジオから、アンジェラ・アキさんの、『手紙~拝啓十五の君へ~』、の前奏のピアノの音が流れ始めた。 「あっ! そう言やぁ~、多岐先生、この曲好きだったね!」 「そだね~!」 ♪拝啓~、この手紙~……♪  って、出だしを歌っているはずなのに、ちょっと電波が悪かったのか、 「あれ? 今さ~、何か……、『♪背景~、この毛ガニ~♪』って、聴こえなかった?」 「そだね~! アハハハハ~ッ!」 「よしっ! それで行こう!」 「いいね! いいね!」 「先生、確か、カニ漁してんだもんね!」  私たちは教室の黒板に、大きな毛ガニの絵を(えが)き、 「♪背景~、この毛ガニ~♪」  と歌いながら、毛ガニの絵をバックに、五人並んだ写真を、パシャリ!  教室の後ろの黒板には、漫画のセリフの吹き出しを五人分描き、その中にも、やはり、毛ガニの絵を描き、私たちはそれぞれ吹き出しのところに立って、もう一枚、パシャリ!  職員室で、写真をプリントアウトしてもらって、それぞれの手紙と共に、北海道の先生に送った。  一週間後、それぞれの家に、北海道の先生から、クール宅急便の荷物が届いた。  早速、開けてみると、透明のビニールの中に、 『アンジェロ・多岐 : ♪毛ガニ~拝啓十五の君へ♪』  と書かれた紙が、ピランッ! と入っていた。  届いた翌日の放課後、五人揃(ごにんそろ)っているときに、先生の携帯に、お礼の電話を掛けた。 「先生、毛ガニ、ありがとうございました!」 「どういたしまして!」 「先生~」 「何?」 「私たち、全然、催促したつもりなんてなかったのに~!」 「ウソつけ~~~ッッッ!!!」
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