まさか

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まさか

 さくらにつき合っている人がいたなんて全く知らなかった。同じホテルに勤めるその彼はさくらと同じ年で、つき合って一年になるらしい。    さくらに結婚を打ち明けられた一週間後、彼に会った。    彼は家に上がると真っ先に仏壇の前に行き、真剣な表情で長々と手を合わせていた。ホテルマンらしく礼儀正しい青年だった。ケチのつけようもなく、彼との結婚を認めるしかなかった。さくらがいい人に出会えて嬉しいが、彼がさくらの事を「さーちゃん」と呼ぶたびに寂しい気持ちになった。    素直に娘の結婚を喜べないのは父親としての心境だろうか。僕は二人に笑いかけながら泣きそうになる。慌てて席を立ちリビング隣の仏間に行った。  真由美に報告するふりをしながら、こっそり涙を拭った。その時、真由美の位牌の後ろに何かがある事に気づいた。何だろうと手を伸ばすと、見覚えのない位牌だった。位牌に記された文字には一年前の日付が記されていた。  それは――僕の位牌だった。
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