災難

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災難

「準備しなくていいの? 明日でしょ?」 「あとでやるからもう少し寝かせて」  宗方(すぐる)は明日から長野へ2泊3日の修学旅行に行く。  今は自己責任・自己管理の観点から、見学場所やスケジュール、金銭管理などは全てグループごとに話し合って事前に決める。  長野は冬に限らずオールシーズン楽しめる定評のある観光地。長野の代名詞松本城をはじめ、大自然ならではの体験型施設も多くある。壮大な景色を眺めながらのカヌー初心者体験、郷土料理のおやき作り、苔庭作り、空中散歩のツリートレッキングなど、いくつかのイベントを生徒が選択をしてルートも全て自分たちで決めていく。  学年で配られるしおりを片手に歩いたのはひと昔前のこと。  そして待ちに待った修学旅行の日がやってくる。 「みんなグループごとに集まってるかーー?」 先生の掛け声で後方にいた小太りの毛利大介は、先頭のほうへ歩き出した。 「ボサッとしてんじゃないよー、毛利。っとにドンくさいなー。俺はお前と同じグループでいるのホント辛いわ。何で遅いお前が歩け歩けに参加するかなぁ。みんなの足引っ張ると思わない?」  チームリーダーの宗方がわざと大きな声で後ろの方にいる毛利に向かって言った。 「ちゃんとリーダーの言うこと聞けよなー」 「やめなさいよ、旅行中に。みんな気分悪くなるじゃない」  そばにいる女子が注意をしても、宗方は雰囲気を崩したことなんかお構いなしにサッサと歩いてバスの中へ乗り込んだ。  そして数時間、途中休憩を挟みながら無事に目的地に着くと、先生の指示のもと各グループは各々の予定表通りに分かれていく。  山歩きを選択した男5人女2人の宗方グループは、道標通りの登山コースを歩き始めた。  最初は話しながら纏まって歩いていた7人だが、時間が経つにつれ徐々に長い列となり口数も少なくなっていく。メンバーの様子を確認しながらリーダーの宗方が皆に声をかけた。 「少し休憩しようか」 斜面の緩やかな枕木のところで一呼吸おくと、ハァハァとみんなの息づかいが聞こえた。  生い茂る木々や葉の揺れる音、樹木や枯れた落ち葉の匂いが風に乗り、自然に包まれる錯覚をおこす。飲み物を飲みながらそれぞれに身体を休めていたその時。  数分の時間が時を分けた。  ゴゴゴ……と後ろの方で鈍い音と地響きがし足元を揺るがした。  7人はその場にしゃがみ込みさっきまでの優しかった樹木が今にも襲いかかりそうな強さを持った表情に変わる。  静寂な山中に突如、連日大雨に見舞われた影響で崩落事故が起き、1グループだけが山の中に取り残されてしまった。  事前調査では特に問題はない地域だと現地では言っていたのだが、自然とは計り知れない未知のもの。突如起こった姿に為す術もなかった。  取り残された〝山歩きグループ〟の男女7人は互いに顔を見合わせ黙り込む。見渡すと近くにひっそりと佇む洋館。7人はその建物に頼らざるを得なかった。  山の天気は変わりやすい。すぐにでも絞れてきそうなどんよりとした空を宗方は心配げに見つめている。 〝桐島壱番館ーー〟  この洋館の表札にそう書いてあった。一ノ瀬が呼び鈴らしきボタンを押すが反応はなく在宅の気配もなかった。 「宗方、どうする? 今は崩落地帯には近づかないほうがいいな。二次災害の危険もある」 「おい、成瀬。オレの携帯電波繋がらないけどそっちはどうよ」 「こっちもムリだ。こんな山の中じゃ電波は厳しいだろ」  薄暗い遠くの空から聞こえる雷鳴が7人をますます孤立にさせ、不安な声が漏れる。 「こ、怖いねッ。せめてこの建物に入れないかな……」 「山中での雷ってもの凄いんでしょ? 音も光も半端ないって私も前に聞いたことある」 「えーー、何とかならないの? もう。警察や学校は何してんのよ」 「仕方ないよ、この状況じゃ助けにくるほうも危ない。時を待つしかないよ」  宗方を筆頭にみんなで現状をどうするか考えあぐねていた。すると遠くに聞こえていた雷鳴が、突如至近距離で地響きとともに大きな音を立てた。  キャーーッ! ズドンという音とバキバキと割れる音、そして眩しすぎる真っ白な雷光が、シャワーのように目の前に落ちてきた。  ゴゴゴッという低い音が、新たに違う場所での崖崩れを予想する。7人はこの衝撃でその場に倒れて意識を失った。
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