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消えたものは
「あれ? ど、どういうこと?」
月島が投げかけても誰も応えられない。
もはや奇怪な現象どころの騒ぎではなかった。
「おい毛利。おい起きろよッ。消えちゃったよ、建物が消えたんだよ、見ろってばよ!」
魔法が解けなかったのか、なぜか毛利だけは起きてこない。
「ん? あーうん」
辺りを見廻して納得したように毛利はまた寝てしまう。そんな姿を月島が驚くように言った。
「この状況でまだ寝てられるって逆に凄いな」
「何言ってんのよ。毛利はずっと夜中も電気つけてくれてたのよ、私達のために。眠いの当たり前じゃない」
聖が訴えるような目で言った。
「え? あいつずっと起きてたのーー?」
「うん。夜中にトイレ行くときも電気ついてたからね」
「へぇ、あの毛利がねーー。寝ずに番人してくれてたとは……」
「じゃあこの洋館が消えるところは見てないのかな」
「……」
建物があったはずの場所にはポッカリ穴があいたように草木も生えていなかった。朝の光が木々の隙間から点々と7人を照らし、うつろな世界から現実の世界へと呼び戻していく。
「宗方ぁー、お腹すいた」
「何だよ成瀬。何もないよ」
「いや。また宗方シチュー食いたい」
聖が口に手をあてて驚いた顔を見せた。
「どうしたよ?」
「今、成瀬が食べたいって言ったのに変化しなかった」
「あ、ほんとだ。食べたーい、腹へったー!
宗方のシチューが食べたーい!
カッモーーン! 宗方シチューっ!」
そばで聞いていた一ノ瀬たちが、成瀬の叫び声に似た大きな声を笑った。
「おい、俺の名前出すのやめろよ。みっともねぇだろ。今度はお前が変わる番だろうがよ。
お前がみんなのためにカレーになれ。
成瀬の大盛カツカレー、出てこーーい!」
2人がどんなに大きな声で叫んでみても宗方も成瀬も食べ物に変わることはなかった。
「魔法が解けたんかな?」
「この洋館と一緒に?」
「そうとしか考えられないだろ」
「おおーい! 誰かいるかー!」
捜索隊がようやく近くまで辿り着いた。
「こっちだよー! ここにいるよー!」
真っ先に成瀬と一ノ瀬が声のする方へ走っていく。
「助かったね、良かった!」
「うん……」
ホッとした如月の目が潤む。
「シチュー美味しい……」
寝言をいう毛利はいまシチューを食べているのだろうか。その幸せそうな寝顔に宗方たちはクスクスと笑った。
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