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泊まる覚悟
「で、宗方。これからどうする?」
「うん。今晩はここで泊まらせてもらおう。
ここなら外よりは安心だし、ただその前に何か食べ物があればな」
「おい宗方。それ言っちゃマズイんじゃ?」
「え?」
その瞬間宗方はパッと消え、テーブルにはシチュー皿が突如現れた。
「ワォーッ。宗方ーー!」
そこには湯気の立つ温かいシチューが7つ。
幻覚なのか何なのか、いま出来たと言わんばかりにゴロゴロとした肉や野菜が皿から顔を出す。腹を空かせた肉食動物の前に芳しい匂いが部屋いっぱいに立ち込めた。
「これ、宗方の血と肉なのか?」
「やだ。怖いこと言わないでよ」
匂いにつられた成瀬がシチューをまじまじと見にいくが、他の者は遠目で見ながら皿に近づこうとはしなかった。
「オレがいないとこなら大丈夫だ」
端っこのシチュー皿から宗方の声がする。
「おー、そっちにいたのか」
「早いとこ食べてくれな。デザートはそこの棚にチョコと牛乳卵砂糖寄温菓(カスタードプリン)がある」
「何だよ宗方。気前がいいなぁ」
「いや、オレじゃないよ。誰かがオレの頭に入ってくんだよ」
大丈夫なら、と腹を空かせた成瀬が一番手に席に着く。
「いただきまッす!」
先の丸っこいスプーンで大きくすくい、デミグラスの濃厚なシチューを流し込むように夢中で食べ始めた。
「うんまい!」
半信半疑の一ノ瀬と、具材が気になる月島が2人揃ってシチューを口にし、顔を見合わせ頷く。
女子も指先にシチューをつけてペロッと舐めると、思いがけず美味しいと顔もほころぶ。何とも不思議な光景だが今宵は賑やかなディナーとなった。
シチューを完食した者はすぐさまデザートに手が伸びる。牛乳卵砂糖寄温菓(カスタードプリン)はドラマでよく観るようなひと昔前の包装だった。
「それ、昭和のレトロな感じだな」
誰かがそういうと、分析好きな聖が包装紙を眺めカチャカチャコチコチ頭の中で調べ始めた。
ちーーんッ!
答えが出た聖はパッと顔をあげる。
「これ、もっと古いみたい。大正に出来たものらしい。これが流行っていたのはね」
「たいしょうーー?」
「今こんな菓子売ってるっけ」
「復刻版とかじゃない?」
昔ながらの変わった味のプリンを不思議そうに食べ始める。
「宗方、おかわり!」
成瀬はシチューのおかわりを宗方に催促したが〝シチュー宗方〟におかわりはないと言われ、やむなくプリンを器から取る。
「ちぇっ」
腹が膨れてくると緊張の糸もほぐれてきた。
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