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一周目一番手 夏目侑希
――――ねえ、私がどんなことになっているか知りたい?
あの時の彼女の顔を、俺は今でも覚えている。なんだか雨が好きだとでも言うような、陰鬱とまではいかなくてもどことなく暗い顔だった。
耳をすませば、今でも彼女の声が聞こえてきそうな気がする。高校を卒業するまで何度も行使していた、俺の特別な力。それを使えば、彼女の声なんてすぐに見つけられるはずなのに、どうしてだか俺はそれをしていない。
なんだかなぁ・・・。
ここ最近はいつもこんな感じだ。何をやるにもイマイチ気分が乗ってこない。だから堕落したみたいに大学の講義にも出ずに、こうやって一人暮らし中の部屋に引きこもっている。
自分でもダメだとは分かっている。だけど、心と体が直結してくれれば誰だって苦労しない。心のままに体が動いてくれれば何も悩む事なんて無いし、こうやって罪悪感に苛まれながら部屋で茫然自失としながら過ごすこともないのだから。
――――ヴゥーッ
スマホが震えた。どうせまた迷惑メールだろう。確認もせずにすぐに消そうとして、その手が止まった。
親からのメールだったから?
違う。
高校から仲の良かった笹田からのメールだったからだ。
『いつまでサボり続けんの?』
その一言だけだった。それなのに、俺は金槌で後頭部を殴打されたような衝撃を受けた。きっとそのせいだろう、直後に起こった事にも何の驚きも感動も無かった。
さっきまでうるさいくらいに窓の外から聞こえてきていた車の音もセミの声も、エアコンの空調の音すらも、俺の耳に届いてこなくなった。
俺の耳が狂ったとか、そんなんじゃない。だとしたら、こんなに落ち着いていられないはずだ。理由なんてものはとっくに分かっている。
俺は、高校生の間だけこの感覚を知っていたからだ――――。
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