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三日月
三日月の日。
この日もぼーっと空を見上げていた。仲間との忙しい日々は戻ってこない。そんな時だった。
「ねぇ、何してるの。いつも空を見上げて。」
そこにいたのは同い年くらいの少女だった。どうやら違う高校らしい。
「何って、少し考え事を。あ、あの…どちら様ですか?」
「あたしは南高の叶子。君は?」
「僕は中央高校の風太。」
(やっぱり…)
「ねぇ、何を悩んでたの?」
「悩んでた訳じゃないけど、文化祭が終わって寂しいなぁって。」
「へぇ。君も文化祭で悩んでたんた。」
「いや、悩んでたわけじゃないって…。…。も?」
「うん。あたしの高校はね、2週間後に文化祭なんだー。でも、上手くいかなくって。」
「どうして?」
「みんな部活とかがあるから中々協力してくれなくて。あたしは良い劇を作りたいんだけど。」
風太は思い出した。1ヶ月前、自分も同じ状況にあったことを。初めは構わずに何人かで黙々と作業を続け、その姿を見たクラスメートが加わり、だんだんと輪が広がって準備を成し遂げたのであった。
「うーん。まずは何も言わず手を動かしてみることだよ。頑張ってる姿はみんなに伝わるから。」
叶子はこれまで準備に協力するよう説得することで精一杯だった。そのせいで準備にもあまり手がつけられずに、さらに準備が遅れる原因にもなっていた。
「何も言わずに手を動かしてみる、か。うん、やってみる。」
ボーーーー ボボーーーー
ピンポンパンポン
「もう間もなく本船は着岸致します。下船のご準備をお願い致します。本日もフェリーをご利用頂き有難うございした。お気をつけてお帰り下さいませ。」
アナウンスが入り船内がバタバタとし始める。甲板の二人にもそれが伝わる。
「ありがとう。少しスッキリしたよ。またね。」
「うん、また。」
別れの言葉を交わして叶子は島の反対側へ風太は船着き場の近くの自宅へ、それぞれ帰った。
雲の陰りもなく三日月が島を照らしていた。
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