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第二話 有為転変
どうして俺は、未練がましく毎日のように彰彦からの手紙を読み返しているのだろう。
ヤツは何かの決心を固めたのだろうか。
「実は実在しない人だったりして」
圭太の言葉に軽く睨み返した俺を見て、彼はすまんなと苦笑いをした。
彰彦がいなくなって別に困るわけではないのだが、だからといって何もしないのは無責任のような気がする。
大学の近くに一見お洒落な古いカフェがあって、彰彦はそこでバイトをしていた。
彼はその前体育会系のノリの居酒屋でバイトをしていたのだが、イレギュラーに来る客や、矢継ぎ早に入る注文に着いていけず、すぐに止めてしまった。
「今のバイト先は仲間から批判的な言葉を浴びることもないし、気が楽だよ」
精神的にも肉体的にも疲れはてているように見えた彰彦が少々心配だった俺は、落ち着いた様子の彼を目にして、そのときはよかったなと思っていた。
彼はあまり自分の主張を貫くタイプではなかったので、古いカフェでは安息を得られていたのではないかと単純に感じたのだが、そうではなかったのだろうか。
「でもさあ、仁はその人と四六時中一緒にいたわけ?」
圭太の問いに対して、そういうわけではないが、彰彦の裏に隠された部分がどうしても気になると俺は言った。
「彰彦は聞き上手だったから俺の話は散々したけど、考えてみたらあいつのことは全く知らないんだよな、俺」
すると圭太は俺の頭を小突いて、俺のことだってよくわかってないだろと笑った。
「知っておくべき?」
「そもそもお前は人に関心がないんだからムリすることないんじゃね?」
痛いところをついてくるなと思ったが、正直圭太の言う通りかもしれないなと感じた。
彰彦が俺の元を去ったのは、当然の成り行きだったのだろうか・・・。
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