1人が本棚に入れています
本棚に追加
第三話 だがしかし
衝撃を受けたのは、実は彰彦に彼女がいたことだ。
俺にだっていないのだから、ヤツに彼女なんていないと確信していた。
ある日俺のLIMEに彰彦の知り合いだという女性から連絡があり、彼女もヤツの失踪を心配しているようだったので、大学の最寄りの駅で落ち合うことになった。
彰彦のことだからきっと素朴な女の子が現れるのだろうと想像していた俺の視界に、目を奪われるようなキレイなお姉さんが登場したので、驚きととともに、なんだか腹立たしい気分になってしまった。
時刻は4時半頃で、彼女と一緒に入った珈琲店にはうちの大学の学生や学校帰りの高校生たちで賑わっていた。
「あっさり捨てられちゃいました」
平田由美子と名乗ったその女性は、苦笑いをしてそう言った。
LIMEでは知り合いと言っていたのに、蓋を開けてみれば彼女のようだったので、俺はえっと、彰彦の彼女さんですか?と確認をした。
「はい・・」
こくりとうなずくと、彼女はそう言った。
「すみません、ヤツとは平田さんの話題になったことがなくて、その・・、彼女がいたことを知りませんでした」
「あ、いえ、いいんです。ちょっと事情があって私たちの関係はお互い誰にも話さないようにしていたので・・」
「・・・。そう、ですか」
事情とはなんだろうと少し不思議な気持ちになった。
まさか彰彦の人のよさに付け込んで都合よく利用していたのだろうか。
平田由美子いわく、彰彦は彼氏として申し分のない性格だったという。
たしかにヤツは俺のような皮肉屋にも気さくに話しかけ、頼ってくれていたように思う。
不道徳なことをする人間でもないだろうし、二人で考えても彰彦がいなくなった原因は見当もつかなかった。
「また彰彦くんの声が聞きたいな・・・」
そう呟く平田由美子を観察しながら、俺の頭は混乱していた。
彰彦がいなくなって彼女と自分は今同じ思いをしているはずなのだが、この人物の何かが気に食わない。
なんというか、彰彦のような好青年には潜んでいない何かが、彼女の中にあるような気がしてならなかった。
なすすべもなく、俺は何か思い当たることがあったら連絡をすると言ってその日は平田由美子と別れた。
駅で会釈をした彼女の顔に、失望感が浮かんでいたのを俺は見落とさなかった。
最初のコメントを投稿しよう!