11年後の月で君を待つ

01．アバター

スマホを手にしたまま、ベランダに出る。
月を見上げる。
僕と君とを照らす、スーパームーン。

2人に届くのは1.3秒前に生まれた同じ月光。
なのに、君との時差は2時間ある。
寄り添って眺めた空も、今は時間が隔てている。

「Where is the other you now?」
ベトナム語を話せない僕と、日本語を勉強中の君。
自然と会話は、英語になる。
カタコトのイングリッシュ、時々ニホンゴ。

「Where is the other you now?」
月を見て、どうやら彼女も同じことを考えているようだ。
1年前、彼女に語った『もう一人の僕(アバター)』。
今まで話題に出さなかったのに、彼女が覚えていたことが意外だった。

今頃、僕のアバターはどの辺を歩いているだろうか？
1年前、月へ向かって歩き始めた僕のアバターは。