1. 気まぐれ

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 家から駅までは、徒歩で20分ほどかかる。  住宅街を抜け、駅前に出る。駅前には5階建ての商業施設をはじめチェーンを含む様々な店が存在し、少し歩けば7、8階建てのオフィスビルが数棟、さらには商店街もあるため、まばらだが朝でも人通りはある。  俺は駅ではなく、商業施設の1階にあるゲームセンターに入った。  館内は、暖房が程よくきいていて、あたたかかった。 だが入ったはいいものの、数日前から入り浸っているせいか、今では館内のゲームは一通り手を付け、飽きがきていた。  さあ、どうするか。  とりあえず、見落としているゲームがないか確認するため、見回ってみることにした。リズムゲームやシューティングゲーム、レースゲームなど、種類が豊富だ。しかしどれも1回以上は経験したものばかりだった。 フロアの奥まで行きついた時、ふと足を止める。 『ひよこたち』  目に入ったのが、それだった。  今女子の間で流行っているらしい、ひよこのキャラクター。翼と足は存在せず、球の形をした黄色い胴体に、楕円形のくちばしと小さい点のような二つの黒目がついている。いわゆる「ゆるキャラ」というやつだ。クラスの女子にも、グッズを持っている奴が多い。「ひよこたち」という名前は捻りが無い気もするが、ファンとしては可愛ければなんでもいいんだろう。  目の前にあるのは、そのキャラをかたどったぬいぐるみやらマスコットやらが、大小様々もみくちゃになっているクレーンゲーム。  景品が取れてもかさばるので、クレーンゲームだけは素通りしてきた。だが他のゲームにも飽きてきたころだ。小さめの景品くらいなら邪魔にはならないし、ものは試しに狙ってみてもいいかもしれない。  けれど――思えば、なぜこの時俺は、よりにもよって『ひよこたち』をトライしたのだろうか。同じ所に、少年漫画関係やロボット物など男臭い景品が多々陳列されている機械がいくつかあったにも関わらず。  念のため言っておくが、俺にこんな可愛い趣味はない。  それなのに、どうしてわざわざこんなファンシーなものに手をだしたのか――魔がさした、としか考えられない。
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