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「ところで、名前は。お前の、まだ聞いてねえんだけど」
仲間とやらになったんなら、さすがに知っておかなければ、呼び方に困るからな。というか結局何なんだ仲間って。
「……名前……」
そいつの眉間のしわが復活した。
嘘だろ、まだ信頼されていないのか。さんざん仲間がどうとか言ってたのに。結構面倒臭いな。
「これから仲間になるって人間に、それはねえだろ? それに俺は名前教えたのに、お前は教えないって、なんか不公平じゃねえの」
「ああっ、そうだった……どうしよう……」
俺の言葉に、かなり困っている。
それにしても、簡単に心を開かないあたり、今どきの子供は防犯意識がしっかりしてるな。
少しだけ感心しかけたが、そもそもの始まりが知らない人が持っていた物に食いついたことだというのを思い出す。やっぱり駄目だわ。
とりあえず、どうしても名前を教えられなければ、適当に呼び名を決める必要がありそうだ。今日知り合ったばかりの人間を無条件に信用できない気持ちは分かるし。
ぐるぐると考えていると、袖を引かれた。
瞳には、未だ不安が色濃く残されている。
「あの、悪いこと、しないですか」
「悪いこと?」
「……その……ゆうかい、とか……」
額に手を当てる。
「誰がするか!」
「あ、ご、ごめんなさい……」
そいつはしゅん、と縮こまった。
そんなに信用ならないのに、仲間にしようとしてたのかよ。やっぱ馬鹿だろ。
思わず、笑みがこぼれる。
俺は、俯いたままの少女に声をかけた。
「悪いことはしねえよ。約束する」
自分でも驚くくらい、優しい声音だった。まさか自分の声で背筋に悪寒が走る日がこようとは。
そんなことを考えていると、意を決したように、少女が顔を上げた。
「……松沢、弓」
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