1. 気まぐれ

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 晴れて俺の手からひよこを受け取ることに成功した弓は、ご満悦の様子だった。 「それ、そんなに好きなのか」 「うん、大好き!」  弓はにぱっ、と笑うと、リュックを背中から下ろし、開け始めた。 「悠成さんにね、見てほしい絵があるの」 「弓が描いたやつ?」 「うん」  リュックから出てきたのは、A4くらいの大きさのスケッチブックだった。 「いつも持ち歩いてんのか」 「そうだよ」  小さな手が、スケッチブックをパラパラとめくる。 「『ひよこたち』のひよこさんはね、仲良しなんだよ。あ、ほら、こんなふうに」  目当てのページを見つけたらしい弓が、俺に見せてきた。  そこには、色鉛筆で描かれた絵があった。真っ白な画用紙の上で、多数の黄色い球体が互いに密着し、一つの大きな塊を形成している。 「ひよこさんたち、かわいくてつい描いちゃうの」 「ふーん……なんかキモいな」  率直な感想を述べた。それを聞いた弓が、眉をつり上げる。 「ひどーい! かわいいでしょ! それとも、わたしの絵がキモいの?」 「いや、多分お前の絵じゃなくてもキモ……てか密集しすぎじゃね」 「そこがかわいいのに! それに、みんな楽しそうなんだよ」  弓は頬をぷくっと膨らませ、俺を睨んだ。 「悠成さんはこんなに友だちいないの?」 「いねえな」  会えば話すけど、友達かというとそうでもない、みたいな奴は割といるが。  弓の眉が、ハの字に下がる。 「……寂しくないの?」  心の底から憐れまれているのが分かる。余計なお世話だよ。 「別に。気楽だし」  ドスン、と背もたれに身を預ける。  人付き合いなんて、広く浅くぐらいが面倒でなくて丁度いい。  すると、弓は俺の顔を覗き込んだ。 「じゃあ、じゃあね」 「ん?」  目線を弓に向けると、なぜか瞳を輝かせている。 「わたしが友だちになってあげる! そしたら悠成さん、寂しくなくなるでしょ?」  俺は固まった。  こいつ、話聞いてたか? 「いや、だから別に寂しくないって……」  俺が訂正しようとすると、弓の眉が再び下がった。 「……いや?」  瞳が、心なしか潤んでいる。 「うっ」  良心が、ちくりと傷んだ。 「……分かったよ……なればいいんだろ、友達」  俺はため息をつきながら、ぽん、と弓の頭に手を乗せた。  弓は満足そうに笑った。 「それじゃ、今から友だちね!」
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