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晴れて俺の手からひよこを受け取ることに成功した弓は、ご満悦の様子だった。
「それ、そんなに好きなのか」
「うん、大好き!」
弓はにぱっ、と笑うと、リュックを背中から下ろし、開け始めた。
「悠成さんにね、見てほしい絵があるの」
「弓が描いたやつ?」
「うん」
リュックから出てきたのは、A4くらいの大きさのスケッチブックだった。
「いつも持ち歩いてんのか」
「そうだよ」
小さな手が、スケッチブックをパラパラとめくる。
「『ひよこたち』のひよこさんはね、仲良しなんだよ。あ、ほら、こんなふうに」
目当てのページを見つけたらしい弓が、俺に見せてきた。
そこには、色鉛筆で描かれた絵があった。真っ白な画用紙の上で、多数の黄色い球体が互いに密着し、一つの大きな塊を形成している。
「ひよこさんたち、かわいくてつい描いちゃうの」
「ふーん……なんかキモいな」
率直な感想を述べた。それを聞いた弓が、眉をつり上げる。
「ひどーい! かわいいでしょ! それとも、わたしの絵がキモいの?」
「いや、多分お前の絵じゃなくてもキモ……てか密集しすぎじゃね」
「そこがかわいいのに! それに、みんな楽しそうなんだよ」
弓は頬をぷくっと膨らませ、俺を睨んだ。
「悠成さんはこんなに友だちいないの?」
「いねえな」
会えば話すけど、友達かというとそうでもない、みたいな奴は割といるが。
弓の眉が、ハの字に下がる。
「……寂しくないの?」
心の底から憐れまれているのが分かる。余計なお世話だよ。
「別に。気楽だし」
ドスン、と背もたれに身を預ける。
人付き合いなんて、広く浅くぐらいが面倒でなくて丁度いい。
すると、弓は俺の顔を覗き込んだ。
「じゃあ、じゃあね」
「ん?」
目線を弓に向けると、なぜか瞳を輝かせている。
「わたしが友だちになってあげる! そしたら悠成さん、寂しくなくなるでしょ?」
俺は固まった。
こいつ、話聞いてたか?
「いや、だから別に寂しくないって……」
俺が訂正しようとすると、弓の眉が再び下がった。
「……いや?」
瞳が、心なしか潤んでいる。
「うっ」
良心が、ちくりと傷んだ。
「……分かったよ……なればいいんだろ、友達」
俺はため息をつきながら、ぽん、と弓の頭に手を乗せた。
弓は満足そうに笑った。
「それじゃ、今から友だちね!」
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