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2. 黄色い葡萄
その日から毎日、俺と弓はいつもの公園で会った。
基本的には、ひよこについて弓が語るのを聞いたり、弓のお絵描きに付き合ったり、適当にコンビニで買った昼食を一緒に食べたりと、だいたい同じことを繰り返している。
弓の描く絵はいつも、ひよこが葡萄の実のように大勢くっつきあっているものばかりだった。ひよこ以外のものは何も、それこそ背景すら存在しない。
なんの変化も刺激も無い。だが不思議なことに、それが苦ではなかった。
一日中寒空の下にいるのはなかなかに堪えるが、一日中ゲーセンで時間を潰していた頃より、よっぽど充実していた。
それから数日後。
いつものように俺は弓と会い、別れた後は適当に暇をつぶして9時半頃家に帰った。
面倒だが、帰宅した時は親に挨拶するようにしている。無言で自分の部屋に入れば、次の日小言を言われるのが目に見えているからだ。
だから今日も、挨拶だけしてさっさと自室に入ろうと廊下を進み、リビングに近づいた。
「タカシくん、H高校推薦合格ですって」
中から母さんの声が聞こえ、思わず足を止める。
H高校は、俺が落ちた所だ。
「へえ。すごいな、君のお姉さんの所の子たちは」
もう一人、今度は低い男の声が聞こえた。どうやら親父も帰宅していたようだ。
「ええ、みんな良い高校、良い大学に行って……それに比べて悠成はねぇ……」
「そう言うな。学校には毎日通っているんだろう? A高校も悪い所ではないし、本人が真面目に授業を受けてさえいれば、何も恥ずかしいことはないさ」
「いいえ。H高校に落ちたってだけで親戚中に恥を晒しているわ。常に学年トップで、大学もT大に受かってくれないと、この損失は取り戻せない」
俺は廊下を引き返し階段を駆け上がった。それ以上、両親の会話を聞きたくなかった。
「なに、悠成? 帰ってるの? 帰ってるなら挨拶くらいしなさい」
母さんに足音で気づかれたようだが、相手をする余裕は無かった。
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