1. 気まぐれ

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1. 気まぐれ

「あんた、勉強してるの」  朝食の席で、必ず発せられる、この一言。  母さんの小言を生返事でやり過ごしつつ、目の前のトースト1枚・目玉焼き2枚を平らげることに集中する。 「ちゃんと勉強しなさいよ。A高校の学年トップくらい余裕で取ってくれないと困るんだから」  後に続く台詞も、もう何度聞いたか知れない。  皿の上を空にした俺は、すぐに立ち上がり、母さんの話を遮る。  そして鞄を肩に、マフラーを首に引っかけ、 「じゃ」  また何か言われる前に家を出る。外に出れば、こっちのもんだ。  歩きながら、ズボンの尻ポケットに入れていたスマホを取りだす。  発信履歴の一番上に、A高校の番号が書いてあった。通話ボタンを押し、スマホを耳に当てる。 「――あ、もしもし。2年3組の藤原です。――ええ、はい。今日もちょっと、具合悪いんで休みます。では」  深く追及される前に耳から離し、通話終了のボタンを押す。  強い北風が吹き過ぎる。 「……さっみ」  尻ポケットにスマホをしまい、空いた両手をさすりながら俺は駅の方面へ歩みを進めた。
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