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3話 寺の中 × 褒められる少女 × 活きモノを扱う調理師
それから数日後、少女がその日の修業を終え、庭先でぼんやりしていると、広呂に明るく声をかけられた。
「おっ、可愛い娘ちゃん。元気ないね。ホームシック?」
広呂は座り込んだ彼女の顔を覗き込んだ。
「なら、、、俺の飯でも食うか?めっちゃ元気出るぞ!」
「え?広呂さん、お料理されるんですか?」
「ふふん、俺、実はここの調理師してるんだ。
元気のない君に特別メニューを作ってあげようか?」
「すごい!
男性の料理って粋があって力強くて素敵ですよね!もちろんいただきます!」
「おおっ、その反応めっちゃ可愛いな。
じゃあ、ついてくる?俺の厨房に!」
彼の誘いで憂鬱な気分が一気に吹き飛ぶと、少女はどんな厨房に連れて行ってくれるのだろうとワクワクしながら後を追った。
「その辺に前掛けとかエプロンとか適当に置いてあるから使ってくれ」
扉を開けた途端、ほわっと温かくて美味しそうな匂いが漂ってきた。
周りを見渡すと、食材や調味料、食器や調理器具がきれいに並べられている。
広呂は短い洒落た前掛けをつけると、手を洗い、先に中へと入っていく。
葉羽はちょうど目についた赤いシンプルなエプロンを借りた。
そしてゴミひとつ落ちていないその空間にピリリと背筋が伸びる。
ここはきっと広呂にとって神聖な場所なんだと思うと、少女はこの場所を少しでも汚さないように、長い髪を上手にくるりと結い、袖を折り曲げて、できるだけ清潔な格好で厨房に入った。
「わお、その格好やばいね。超かわいい!」
「ふふふ、そんなストレートに言われると、ちょっと照れますね」
厨房にはすでに今晩の支度がなされており、見た目も美しい料理が数品並んでいた。
「これ、全部広呂さんが作ったのですか?」
「あぁ、今いるメンバー分くらいならチャチャっとね」
少女はサラリと話す彼の凄さに感動した。
「こんなに素晴らしい料理を作れるなんて、広呂さんて天才ですね!」
「そんな嬉しいことを言ってくれちゃって、お前、本当に可愛いな・・・。
よし、あと一品必要なんだ。
そこの魚を使おうと思っているから、手伝ってくれる?」
彼が指さすほうには木箱が置いてあり、白い布をめくると、そこには一匹の大きな魚が入っていた。
広呂はその魚の尾を掴み上げると、まな板の上にどさっと置く。
「ほら、面白いものを見せてやるからこっちに来いよ」
広呂に言われるままに、まな板の前に行くと、彼がその後ろ側に立った。
そして少女の手を上から掴み、魚に触れるか触れないかの位置でそっとなでるように動かす・・・。
「ほら、よーく見てみ」
彼が耳元で囁き、その吐息が首元にかかると、葉羽はドキドキして思わず息を止めた。
すると目の前で不思議なことが起こり始める。
手をかざした部分の魚の鱗がみずみずしさを取り戻したのだ。
そして少し長めに魚の頭部分に手をかざすと、離した瞬間にその目がまるで生きているかのようにイキイキとしだした。
「わぁ!すごい!!魚が生き返った!!!」
葉羽は魔法でもかけたのかと驚きで目を丸くする。
「だろ?これが俺の力・・・」
「え?広呂さんの力?」
ふいに彼の顔を見上げようとしたが、その距離の近さに気づき、少女は思わずまた前を向く・・・。
「そう、俺はね、食べ物や生き物を浄化することが得意なんだ。
浄化するっていってもその範囲は大きい。
直接モノを浄化する奴もいれば、目に見えないモノを浄化する奴もいる。
その中でも俺は食べ物関係に強いってこと!」
「わぁ!だから、美味しいお料理が作れるんですね!
その食材の息を吹き返して、一番おいしい状態で料理するってことですよね?」
「正解。この力のことを知って、俺は料理に目覚めたんだ」
その時葉羽は確信した。この人には絶対に刻印があると・・・。
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