3話 寺の中 × 褒められる少女 × 活きモノを扱う調理師

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 でもこの状態でどうやって彼の手を確認すればいいのか、先日の反省もあり少女は悩んだ・・・。 そんな時、まな板の近くに置いていた反対の手の指に、生き返った魚が噛みついた。 「いたっつ!!!」 「馬鹿っ、手を貸せ!!」 広呂は噛みつかれた少女の指を自分の口にくわえる。 傷がしみてピリッと痛みを生じると同時に、その指から彼の温かさを感じた。 気まずい雰囲気だけがその場に流れる。 「ごめん、こいつ粋が良すぎたな」 「ううん、もう大丈夫です。 ふふふ、魚に食べられちゃいましたね・・・」 「お前、ちょっとドジだけど、そこも可愛いな」 「広呂さん、そればかり・・・フフ」 ふと気が付くと、彼の両手が少女の手を包み込んでいた。 もしかしたらこの流れで、彼の刻印が浮き出ているのではないかと期待できる。 「よし、もう大丈夫だ!」 広呂は噛まれた指に絆創膏を張ると、再びまな板の前に立った。 「おい、お前! 俺より先に可愛い子ちゃんに手を出すとは度胸あるじゃねーか! 相当美味しいんだろうな、覚悟せい!!」 広呂はニヤリと顔を引きつらせると、勢いよくその魚をさばきだした。 そして、その身を器用に三枚におろす。 「しまった、、、、! 勢い余って下したものの、何に使うか考えてなかった・・・」 広呂は一旦手を止めると、まな板の前で腕組をし考えこんだ。 「あのう、広呂さん。私でよければ、味付けでもしましょうか? 昔よくお料理してたので、小鉢くらいなら作れます」 「ほう、たまには俺じゃない味付けもいいかもな。じゃあ、君に託す!」 葉羽は自分でもできることが見つかると、嬉しそうにその魚の味付けを始めた。 しかしそんな中でも、彼女の頭の中は、どうやって彼の手中の刻印を確認するかということだけだった。 広呂は小さな椅子に腰かけ、じっと彼女が調理する姿を眺めていた。 「ふーん、女が料理する姿ってやっぱりいいな。 俺はいつ、こんなかわいい嫁さんをもらえるんだろうか・・・」 「え?広呂さん、結婚願望あるんですか?」 「そりゃ、いつかはね」 その時ふと、少女の頭に名案が浮かんだ。 「手相・・・・」 「あ?何?」 「ねぇ、広呂さん!手相を見せてくれませんか?」 葉羽は行き当たりばったりで聞いてみた。 「ほい、何かわかるの?」 簡単に見せてくれたその手には、炎のマークが刻まれていた。 「あった・・・よかったぁ!」 そして思わず心の声を口にしてしまう。 「え?なにがあった?結婚線?」 「あ、いや、そのう・・・一流料理人の線です!!」 葉羽はここぞとばかりに、自信をもって嘘ついた。 すると広呂は身を乗り出して目をキラキラさせる。 「ほんとか?俺、そんなすごい奴になれるのか?」 葉羽は無駄に何度もうなずき、彼に不思議な自信を与えたのだった。
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