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「彼女って、、、もしかして青衣さんのことですか?」
「やはり君は知っていたか・・・」
「でも、彼女は家庭の事情で急にお見合いさせられたって・・・
あ、、、もしかして、、、貴方がその家庭の事情を作ったということですか?」
太賀は遠くを見つめたまま、自分の考えに間違えなどないと言わんばかりに返した。
「大輝は物凄い可能性を秘めている。
だから、もっと己を磨き、強くなってもらう必要があった・・・。
女にうつつを抜かし、訓練に手を抜いていたのでは、その可能性はいつになっても見いだせない。
彼女には申し訳なかったが、大輝を諦めてもらったんだ・・・」
それを聞くと、少女は胸が苦しくなり、ぎゅっと目をつぶった。
すると目の奥で、あの時の大輝の苦しんだ顔、寂しそうな顔、落ち込んだ顔、大泣きした顔が次々に映し出された。
「そんなぁ、、、
貴方は、大切な弟を自分が引いたレールの上で歩かせたかったのですか?
本当は彼のこと、何も知らないのではないですか?」
葉羽は丁寧に言葉を選んだつもりだったが、どうしても太賀を突く言い方になってしまう。
「ふん、君はまるで大輝のことをすべて把握しているような言い方だな」
「貴方よりは知っている、といっているのです。
少なくとも、彼が一番辛い時、私は傍で見ていましたから・・・」
「・・・」
太賀は眉間に深いしわを寄せて口ごもる。
「彼にとって青衣さんは、すべての源だったと思います。
彼の負けず嫌いも満面の笑みも、そして比べ物にならないあの強さも、すべて青衣さんが引き出してくれたのだと思います。
彼女がいたから前に進めた。彼女の癒しがあったから、限界の時でも先を見ていられた。彼女のために強くなりたいと思った。
彼女の支えあったから、今の立派な大輝君がいるんだと思います!」
「女に引き出してもらっただって?
そんなんで一流武闘家になれると思うか?」
「誰かのために強くなりたいと思うことはそんなにいけないことですか?
大好きな人への愛は物凄い力を秘めていると思います!
誰かから情報を集めて欠点を排除するのではなく、ちゃんと彼と会い、彼の目を見てその真意を確かめてください!」
葉羽は、太賀に想いをぶつけながら、その片隅で大輝と話をした懐かしい思い出に触れた。
「あいつの顔、そういえばもうだいぶ見ていないかもしれないな・・・」
太賀は先ほどの強さが急になくなり、肩を落としたように寂しそうな顔をする。それを見た瞬間少女はハッとした。
太賀のやり方は非道であっても、兄として弟の将来を想っての行動だった、そしてそのやり方がに彼自身も迷いと心の痛みがあり、後悔の念で先に進めていないのではないかと・・・。
少女は冷静になり、言葉を変えなければと思った。そして自分の役割はこの人を非難することじゃない、この兄弟をつないであげなくてはと・・・。
「すみません、、、私が偉そうなことを言ってはいけませんね。
太賀さんだって大輝くんのことを想って選択した。
それはもしかしたら彼に通じているのかもしれませんよ。
だって、彼は失恋した後、びっくりするくらいの速さで立ち直ってくれました。きっと他に導こうとしてくれる人の愛を感じ取ったからかもしれません。
なぜなら、それときの彼は恨みとか怒りとか、そんな負の感情は一切出さず、ただがむしゃらに前を向いていた気がするから・・・
ただ、もっともっと強くなりたい、ならねばと・・・」
少女の言葉に、太賀は唇を噛みしめた・・・。
「あいつの、支えになってくれてありがとう・・・」
「いいえ、私は大輝君の支えになんかなれていません。
彼の芯は失恋なんかではブレないほどに物凄く強かった。
その強さに、私のほうが救われたくらいですから・・・」
葉羽はぺこりと一礼すると、その場から去っていこうとした。
太賀は咄嗟に声をあげ彼女に聞いた。
「最期にひとつ教えてくれ。君にとって大輝は何なんだ?」
「すごく大切な親友です!」
少女は振り返り、満面の笑みで伝えると、そのまま部屋まで走り去っていった。
しかし部屋についた瞬間、大事なこと思い出す・・・。
「あ!!!大輝、失恋してなかった・・・・
青衣さん戻ってきたんだよね・・・まぁ、いいっか!」
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