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太賀に連れられ、さらに15分ほど坂を上ると、なんとも奥ゆかしい寺院があった。
寺院のあちこちには、龍や獅子といった伝説の生物の美しい彫刻があり、中央の池にはキラキラと輝く石が敷き詰められており、反射した光が水面に映えるなど、見るものすべてが感動に包まれた。
葉羽は異空間にでも足を踏み入れた気分で言葉が出なかった・・・。
その時、池の近くに美しい立ち姿の人が立っていた。
質素な柄の羽織物から、それはきっと男性だろうと思うが、そのなんともいえない魅力に一瞬で引き込まれそうになり、葉羽は彼から目を離せなくなった。そしてふと視線が合うと、彼のほうから軽く会釈をしてくれた。
葉羽が思わずその人に声をかけようとした瞬間、太賀が池とは反対側にあった部屋の戸を叩く。
トントン、、、
「麒麟様、葉羽様をお連れしました」
中からは可愛い声がし、誘導されるままに部屋に入ると、色彩豊かな羽織物を着た煌びやかな女性が奥に座っていた。
「よくお越しくださいました。私が麒麟と申します。
これからしばらくの間、厳しい修業になると思いますが、少しでも貴女の力が開花し、その身に備わるよう期待しております」
その部屋に一緒に入った者が深々と彼女に頭を下げる。
葉羽はひとり、何かが違うと首をかしげた。
「葉羽、どうしましたか?何か不服のある顔に見えますが・・・」
それに気づいた麒麟が、彼女に問う。
「失礼しました、麒麟様・・・。
あのう、そのう、ちょっと言いづらいことなのですが・・・」
葉羽は心の中の疑問を口に出していいものかと躊躇う。
それは隣に座っていた緋色にすぐに見透かされた。
「ちょっと、葉羽ちゃん!こんなところで何??
言いたいことあるなら、ここを出てから私に言って!」
初対面なのに失礼な態度をとる彼女をみて、突拍子もないことを発言するのではないかと緋色が焦りを見せる。
「すみません、緋色さん・・・。
あのう、私にはどうしてもこの方が麒麟様だと、、、、納得いかなくて・・・」
「はぁ?なにそれ!!このまま追い払われたいの?」
葉羽はやはり信じてもらえないのだと、ガッカリ視線を落とす。
すると奥にいる女性は優しく彼女に問いかけた。
「葉羽、私が麒麟でないとなぜ思う?」
「・・・・それは、浄化の力を感じないからです。
私は、婚約者である紗倉より、麒麟様とは浄化の力をその高みにまで清めあげた素晴らしい方だと聞いてまいりました。
貴女様もおそらく浄化の力をお持ちでしょうが、失礼ながらそんなに洗練されておられるように感じないのです・・・。
だから、、、、、だから、、、、。」
彼女の失礼な発言に、緋色は口をあんぐりとし、その場に崩れた。
葉羽は緋色の様子を見て、やってしまったとばかりに自分の発言を反省する。
その時、入口の扉が静かに開き、まばゆいほどの光とともに、先ほどの池の傍にいた男性が入ってきた。
「よくわかりましたね、それでこそ、紗倉の選んだ女性・・・」
その男性は目をパチクリさせている少女の元まで近づくと、ゆっくり腰をおとし、視線を合わせた。
「私が本当の麒麟です。はじめまして、葉羽。貴女が正解よ」
葉羽はその距離が近くなった瞬間、間違いなくこの人だと確信した。
「あぁ、よかったぁ。
私、修業もしないで追い出されちゃうのかと泣きそうでした・・・」
葉羽はホッとして、目を潤ませた。
麒麟は彼女の白くて柔らかい頬に優しく触れる。
「ごめんなさい、試すようなことをして。
紗倉があまりにも貴女のことを褒めるから、どれほどの力量か知りたかったの」
「あぁ、やはりあなたが麒麟様なのですね・・・。
私はさっき通りすがった一瞬で、貴方に心を奪われてしまいました・・・。
私の勘は間違ってなかった・・・本当に素敵な方。お会いできて光栄です!」
「私もですよ。貴女と目が合った瞬間、私は引き込まれそうになった。
このまま紗倉の元に返したくなくなったら、どうしましょう。フフフ」
2人は目を合わせて微笑んだ。
「はぁぁぁ、見事合格なのね、焦ったわぁ・・・・!」
緋色が二人の様子を見て、安心したように起き上がる。
「あれ?緋色さん、もしかして御存知だったんですか?」
「知ってるも何も、麒麟さんは私の師匠よ!
彼女の悪戯好きなのも全部知ったうえで、乗っかったんだよ!
演技よ、演技!!」
するとその場に居合わせた者も皆、ほっと胸をなでおろした表情をしていた。
「え?緋色さんの師匠?
知らなかったのは私だけ・・・?」
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