屋敷

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吉田さんから説明を受けた。 基本的に呼ばれない限りは先ほど挨拶に行った本館に入らないこと。食事は別棟の1階にある食堂でとること。 庭には出ても構わないが、正面玄関につながる表側の庭には入ってはいけないこと。 外出はマスターである櫂さんと一緒でないとできないこと。欲しい物があったら吉田さんに言うこと。 基本的に必要と思われるものについては予め用意をしてあるとのことだった。 僕は勘違いをしていた。 すっかり家族として迎えられると思い込んでいた。この扱いは使用人や書生のようなポジションだ。そうすると役割があるのかもしれない。 見習いの末、後々には秘書や執事のような仕事に就くのかもしれない。 それに気になる言葉を言われた。 櫂さんのお部屋さん。その言葉にはすこし侮蔑が含まれているようなニュアンスに聞こえた。 「吉田さん、先ほどの挨拶に伺った先でお部屋さんと言われたのですが、お部屋さんって何ですか?」 それを言うと吉田さんは困ったような顔になった。 「すみません私からは。それについては櫂さんに聞いてもらえますか」 吉田さんは初めて僕の目をしっかりとみて答えた。 僕は初めて機械的ではない吉田さん自身と言葉を交わしたような気がした。 吉田さんのその表情には困惑と同情が含まれている気がした。
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