特訓

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特訓

密が言いしぶるのがよく分った。 無邪気に質問をした自分。思い返すと恥ずかしい。 密は一体どう思っただろう。 ああ、でも、意味を知ってしまった今では、あの無邪気さは懐かしい。 ベッドから足を踏み出すと開かされた股関節が痛む。乾いた唇を舐めると吸われ過ぎた唇がぴりぴりと染みた。 「いちいち、やり過ぎなんだよ」 こうなってみると一昨日に訓練を受けた密や容の気持ちがよく分かる。 「はぁ。食堂にいきたくないなぁ……」 密も容も、僕と同時に(なつめ)もあんなことをやられたんだよな。何だか皆と顔を合わせるのが恥ずかしい。 腕を降ろした瞬間、ふとマスターのシダーウッドの香りを嗅いだ気がした。瞬時に蘇ってくる昨日の羞恥。思い出すだけで頬が赤らむ。 昨晩は閨房術という妖しい特訓を受けた。緊張をほぐす為リラックスする薬と称する液体を飲まされている。 あまりにも唇ばっかり吸われるから、少し酩酊気味になっていた僕はそのまま食われると思って悲鳴をあげてしまった。 駆けつけてくる舎監。部屋では気まずい雰囲気が立ちこめていた。 皆がいなくなった食堂で同時刻に特訓を受けていた棗と遅い朝食をとる。話題は昨晩の訓練についてだ。 普段から少し乱暴気味な棗。僕に向けられる言葉や動作が痛くてあまり近づかない。同じものを経験して距離を取るどころじゃなくなった。 棗にも僕のあの悲鳴は届いていた。悲鳴を上げた理由を説明すると 「んな、わけないじゃん」と速攻、鼻で笑われた。笑われて少し気持ちがへこむ。 「それで、その後どうしたんだよ」 棗は何でもないように続きをうながしてくる。関心を持たれてへこんだ僕の気持ちは少し平らになった。 「その後、説教されて、ちゃんと最後までやらされたよ。Ωなんだからαを受け入れるし、子どもを産むこともあるんだからって」 結局、僕は逃げ出せなくて、カリキュラムを最後まで遂行されてしまった。その後も大騒ぎする僕にムードもへったくれもなかった。 大人になったらあんなことをするんだなんて大変だ。世の中の人を見る目が変わってしまう。 胸はいじられ過ぎたようで突起の先端が服に触れるとひりひりして痛い。体勢が布地に触れないよう自然と前かがみになってしまう。 身体を撫でさすられ、ヌルヌルする液をまとった指がお尻の孔の中に入ってくる。異物感がいっぱいで中でごにょごにょ指を動かされても気持ち悪いとしか思えなかった。 指に慣れてくると黒い三角コーンみたいな変な器具を入れられた。お腹が詰まっているみたいで、苦しかった。 最後に性器を手でこすられ白い液を吐き出した。それだけは腰が抜けそうなくらい気持ちが良かった、けどさ。 「本当に気持ち悪かったし、違和感だらけで変な感じだった……」 僕は食堂の中で一番遠い場所を見つめる。 「アレが気持ちよくなるんだってさ。ヒートの時は凄いんだって」 棗は声をひそめて言う。今の僕にはそんなこと信じられない。 「苦しいだけなのに……」 二人で顔を見合わせてうん、うんと頷きあった。ヒート以前の僕らには、よくわからない世界だった。
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