美月、茶道部に入る

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美月、茶道部に入る

■谷口美月(たにぐちみづき)プロフィール ・鹿児島県在住 ・2001年12月25日生まれ ・趣味:音楽鑑賞、ダンス ・好きな食べ物:抹茶スイーツ ■鹿児島への引越し(2017年3月) 中学までを東京で過ごした美月は 高校入学を機に父親の実家がある 鹿児島に引っ越して来た。 でも、美月が鹿児島に来たのは これが初めてではない。 年末年始=家族揃って父の実家に帰省 これが谷口家の恒例行事だったからだ。 美月のおばあちゃんは 一人暮らしということもあり 孫に会えることを とても楽しみにしていた。 「美月、お手玉はね ひと針ひと針、丁寧に縫うんだよ。 そしたらね、ほら、お豆さんが みんな一緒だって喜ぶから」 「美月、おせち料理はね 年1回、家族が揃った時に ふるまう料理。 だから、いつも以上に 愛情こめて作るんだよ」 裁縫に料理。 美月はおばあちゃんから 色んな事を教わった。 そして、中2の夏休みを利用し 1人で鹿児島に行ったこともあった。 そんな大好きなおばあちゃんは 3年ほど前から病気を患い 入退院を繰り返すようになっていた。 病名は「多発性硬化症」。 初めて聞いた名前だった。 多発性硬化症は、脳、視神経、脊髄の ミエリンという神経線維を覆う物質が 何らかの影響により破壊され、運動障害、 視力障害、感覚障害など様々な神経症状が 現れる病気である。 病気になる原因はまだ解明されておらず 難病に指定されている。 寛解(かんかい:症状が良くなること)と 再発を繰り返し次第に重症化すると されている。 「大好きなおばあちゃんのそばにいたい」 中3になった美月は 進路について両親と話してる時に そう告げた。 それから何度も話し合い、家族全員で 鹿児島にいくことが決まった。 ■高校入学(2017年4月11日(火)) この日は高校の入学式があった。 最初は母と2人で行く予定であったが おばあちゃんの体調が悪く 母は後から入学式に来ることになった。 1人で、最寄り駅から電車に乗り 3駅目の鹿児島中央駅で降りた。 駅に着いて、甲突(こうつき)川沿いに ある東鹿児島高校を目指して歩いた。 街中を抜けると次第に 大きな川が見えてきた。 両岸にある桜の木はどれも満開で 時折、風が吹くと 桜の花びらが宙を舞った。 あまりの綺麗な光景に 美月は心を奪われていた。 その時である。 「お前、東高だろ。何やってんの? 遅刻するぞ」 背後から美月に声をかけたのは渉(山田 渉・やまだ わたる)だった。 不意に声をかけられ少し驚いたが 勇気をだして聞いてみた。 「あの、すみません。 高校までの道のり、 これで合ってますか?」 内心、不安でいっぱいだったのだ。 「うん、あってるよ。一緒にいく?」 「えっ、いいんですか?お願いします」 美月が渉と言葉を交わしたのは この時が最初だった。 それから5分ほど一緒に歩いたが 恥ずかしさのあまり 美月から話かけることはなかった。 学校の正門をくぐると、 すぐ近くの掲示板に クラス発表の紙が貼られていた。 美月の学年は 生徒が122人、4クラスであった。 渉は1階のA組、美月は2階のD組だった。 「じゃ、ここで」 渉はそういい、友達の輪に消えていった。 「あっ、名前…」 そっと胸の中で叫んだ。 ■美月、茶道部に入る(2017年4月) 高校での生活に少し慣れてきた頃、 部活の体験入部の期間が始まった。 美月は、パッと見 物静かな印象を受けるが 実は体を動かすことが大好きで 友達と一緒に踊った動画を TikTokに投稿するなど 活発な子であった。 部活は、大好きな抹茶が飲める茶道部か 好きな踊りが踊れるダンス部で迷ってた。 まず、茶道部を訪れた美月は、 先輩たちの部活の様子を見学したあと、 ふいに窓の外をみた。 美月の目が輝いた。 校庭で練習する野球部の男子の中に 入学式で会ったあの子の姿があった からだ。 ちゃんとお礼が言いたいな。 そう思ってはいたものの、入学式以降 会うことはなかった。 「好きな抹茶がいっぱい飲めそう」という 表向きの理由で美月は茶道部に、 渉は野球部にそれぞれ入部した。 茶道部は週1回月曜日。 野球部は水曜日と日曜日以外の日が 活動日となっていた。
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