空白の時間、そして

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空白の時間、そして

■空白の時間 美月は女子とは普通に話せるものの 男子と話すのが苦手だった。 小学2年の頃 後ろの席に座ってた男の子に からかわれたこと。 それがトラウマに なったのかもしれない 美月は一人っ子で 近所に同世代の男子がいなくて 話す男性がお父さんしかいなかった。 そういう環境的なものも あったかもしれない。 好きな男子ができても 自分から話かけるのは とても勇気のいる事だった。 そういう美月だったからこそ 渉と出会った入学式に 「ありがとう」を言うことも 名前を聞くとことも できなかったのだ。 それから渉を見かけることはあった。 体育祭、文化祭、高2の修学旅行… そして、茶道部から見る野球部の練習。 一方、渉は誰とでも話せるし 仲良くできるオープンな性格だった。 入学式に美月に話しかけたのも 特別な事をしたという意識はなく 普段通りの行いだったのだ。 ■クラス替え 高2になると、文理選択があり 文系が2クラス、理系も2クラス あった。 この時は、美月がA組、渉がB組。 2人とも文系を選んだ。 隣のクラスになったことで 美月が渉をみかける機会が増えた。 渉への思いが膨らんでく。 そして 3年のクラス替えで初めて 渉と同じクラスになった。 出席番号は 美月が17番、渉が27番だった。 3年生に上がる頃には、 美月の男子に対する苦手意識も 徐々に薄れていった。 そして、5月の席替えで 渉の後ろの席になったのだ。 ■急接近(2019年5月) 前日大リーグの生放送を深夜に見た渉は 席替え初日の授業からウトウトしていた。 そして、2限目の現代文の授業になると 完全に寝てしまった。 最初は緊張から話せずにいた美月も この時は勇気を出さずにいられなかった。 「山田くん、起きて」 何度かそう言い、渉を揺り起こした。 現代文の音読をする順番が 渉に迫っていたからだ。 「さっきは、ありがとう」 休み時間に入ると渉がそう言った。 入学式のことなんて渉は 覚えてないだろうけど 入学式の時のお礼、それを渉に 返せた気がした。 それからというもの2人の距離が 一気に縮まった。 まるで、空白の2年間を埋めていくかの ように… 渉は、根っからの野球少年で 部活のこと、好きな野球選手など 美月が興味のない話を楽しげにした。 それでもよかった。 美月は渉が楽しそうに話すのを 見るのが好きだった。 そして お互いの好きな音楽についても話をした。 渉が好きなのは欅坂46。 アイドルとか可愛い系の女子が好きらしい。 美月は、アイドルに興味はなく back numberやandropなど グループが奏でる歌詞やメロディが 好きだった。 「今、美月が好きな歌って何?」 渉が訪ねると 「andropのKoiって曲知ってる? オススメだから、聞いてみなよ」 美月はそう言った。 話を重ねるにつれ、渉の口から 自分の好きなアイドルや野球の話をする 時間が減っていった。 私の話も聞いてくれる、 美月はそう感じていた。
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