第1章 スーパームーンと奇妙な出来事

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

第1章 スーパームーンと奇妙な出来事

2年前、八ヶ岳の中腹にある小さな村で、月の形をした奇妙な石が6個発見された。 高さが2mぐらいの大きな石で出来た造形物であり、かなりの年数が経っている。形状は、地球から見える月の形となっていて、三日月から徐々に満月までの形をしている。しかし満月だけは発見されていなかった。 月や太陽を祀った文明も多く、この石も古代文明で使われていたのでは無いかと思わせる造形物だ。 ただ、この地に古代文明があった形跡もなく、研究家の中でも物議を醸していた。 更に不思議なのは、2年前の同じ時期に全ての石が見つかった事である。 その満月がある場所に何かがあるのでは無いかと意見が割れる。 そもそも、その月を表した物が石なのか金属なのか分からないのに、何を議論出来るのであろうか? 野中教授は、他にも何か意味があるのでは無いかと、考古学の研究として大学に申請し、石が発見された長野県岳山村で、3年間の研究をする事を認められた。 大学としても、注目を集めている、この謎を解明して発表すれば、大学の知名度も上がる事を見越しての投資であった。 そしてこの1年で分かった事は、2年前に次々と見つかった石は、スーパームーンの直後だった事。 それと去年のスーパームーンの時に、学校近くの森が、青く光っていたのを目撃された事だ。 どちらもスーパームーンの時に起こった現象だと思うのが当然だ。 それと石が置かれていた場所だが、高台にある中学校を中心として石が置かれていて、石と学校の間には家や電柱などの高い建物が無い事だった。 低い障害物はあったが、どの石の位置からも学校の3階部分は、見えていた。 それが何を意味するかは不明だが そして今年は、2度のスーパームーンが見える年で、7月23日と8月22日にスーパムーンが観測される。 そのスーパームーン時に起こる現象に注目した考古学者やら非科学的研究家等、それぞれの研究家がこの地に集まっていた。 この小さな小さな村に、人が多く訪れてくる7月23日の夜は、ちょっとしたお祭り騒ぎになるのは確実で、村もこれを機に出店やら特産物の宣伝を予定していた。 その会場も、生徒は少ないが、やたらと広い中学校のグランドで開催される。 2年前の石が発見された時も、各地の報道局が集まり賑やかだったが、今回はスーパームーンで何かが起こるかも知れない緊張感とワクワク感が気分を盛り上げる。 僕達みたいな田舎の中学生には、この大きな大きなイベントが楽しくてたまらなかった。 7月23日(当日) そんなイベントの中、中学校では1学期最後の授業が終わった。 僕は中学2年1組滝上元気(タキガミゲンキ)14歳。 ちなみに今日が誕生日で、14歳のなりたてホヤホヤである。 僕の通っている岳山中学校は、長野県の八ヶ岳の中腹にある岳山村という人口2000人弱の小さな村の村立中学校で、クラスも各学年に1クラスしかないので、全学年が1組しかない中学校である。 クラスメイトは、10人しかいない。 特に2年の数は少なくて、1年は16人、3年は20人と、合わせても50人いない中学校だ。 帰りのホームルームで、学級委員の野中教授の一人娘の野中すみれ(ノナカスミレ)が前に立ち、話し始めた。 「今日は岳山中学校で様々なイベントがありますが、イベントに来る人は必ず親と一緒に来て下さい。」 そして1学期最後のホームルームが終わる。 「元気、帰ろうぜ!」 と声を掛けてきたのが、僕の一番の親友の池澤義信(イケザワヨシノブ)だ。 帰り道 この岳山村は人口の割に面積が大きく、村を一周廻る小中学校用の送迎バスを村で運行している。 学校近くの地区は自転車や歩きなのだが、僕の家は中学校から遠い地区なので、中学2年では僕と義信と学級委員のすみれがバスで登校している。 バスに義信と乗り込むと僕達は二人掛けの席に座った。 「なあ、元気?」 「何?」 「お前、すみれに告らないのかよ? 今日はチャンスだぞ」 「な..何を突然?」 「多分、すみれも待ってると思うぞ」 少し照れながら 「そうかなあ? でも、すみれはイベント行くのかな?」 そんな会話をしていると、バスにすみれが乗って来た。 すみれは、中学になって東京から、この山奥に引っ越して来た女の子だ。 身長は平均的で、髪は少し背中に掛かる程度のストレートヘアーで、色は白く身体は細い。 くっきりとした二重瞼で目も大きいが、少し垂れているので、優しい雰囲気のする顔立ちだ。 すみれの父が考古学の教授で、岳山村の石に隠された謎を研究していると言っていた。 ただし、期間が定められているらしく、すみれが中学を卒業すると同時に、東京に戻る事になっている。 そのすみれがバスに乗って来た。 思わず二人してすみれを見てしまった。 「何?私に何か用?」 義信「すみれはイベント行くの?」 「父が学校に泊まるみたいだから、私も学校に泊まるわよ。」 僕は思わず 「学校に泊まるの?」 と聞くと、すみれが 「学校の許可も、もらってるみたいよ」 「そっか、俺も泊まりたいなあ」 と僕は呟く。 「元気の親が許可してくれたら、私が父に相談してみようか?」 「えっ本当!行く!絶対に行くよ。 なあ義信?」 多分、義信は僕達に気を使ってくれたんだろう 「あっ俺はイベントには行くけど、帰らないと」 義信の優しさを心底感じた。 そして一度帰宅して、寝る時のスウェットや、洗面具などをバックに詰め込んで、臨時送迎バスに乗り込んだ。 すみれが乗ってくる。 珍しくすみれが僕の横に座った。 「義信は次のバスに乗るって、帰り掛けに私に言ってきたわ」 何だか妙に緊張する。 僕は横のすみれを見ると、顔を少し赤らめた表情をしている。僕と同じ様に緊張しているのだと感じた。 「ねえ、すみれ?」 「何?」 「すみれと出店を一緒に廻りたい。」 顔が熱い。 胸の鼓動がすみれに聴こえてしまうのでは無いかと思う程、激しく脈打っている。 「いいよ。」 とすみれも真っ赤な顔をして返事をした。 心の中でガッツポーズをした。 よっしゃー そしてイベント会場すなわち中学校のグラウンドに着いた。 ポケットの携帯が鳴る。 「もしもし俺」 相手は義信だ 「どうした?もうバス乗った?」 「俺は今日行かないから、きっちり決めろよ!」 またまた義信の友情に涙が出るほど感謝したのであった。 「分かった。頑張るよ!」 「何頑張るの?」 と横にいるすみれが聞いてきたので、慌てて誤魔化した。 「ううん。何でも無いよ。 あっそれと義信が急用が出来て来れないって」 それを聞くとすみれの白い頬が、また赤く染まった。 月が良く見える19:00までは、まだ時間があったので、フランクフルトを売ってる店屋を指差して 「ねえ、あそこに行こう」 と誘う。 すみれも頷いたので、一緒に出店に向かう。 たった50mぐらいの距離を一緒に歩いているだけで、緊張する。 「キャッ!」 すみれがつまづく。 僕は手を差し伸べ、すみれの腕を掴んだ。 「ありがとう」 僕は、か細いすみれの腕を掴んだまま離すのを忘れていると 「元気、もう大丈夫よ」 その言葉に慌てて手を離した。 恥ずかしい 僕はその恥ずかしい行動を紛らわす。 「あっこの石がいけないんだな」 と石を持って、すみれに見せた。 その行動が可笑しかったのか、すみれが笑う。 僕も苦笑いを浮かべた。 そして 「いつまで石を持ってるの?」 と、手に持っている石を見ながら問い掛けてくる。 二人の距離を近づけてくれた石が、幸運の石だと思った僕は、捨てないで後ろポケットにしまった。 そして無事フランクフルトを買って、二人で食べたのである。 緊張のあまり味も覚えていない。 ? 「あれ?すみれ泊まる荷物は?」 「だって、今日は月が見えなくなるまで、月を見てるのよ。寝巻きも要らないでしょ」 僕は自分の大きなバッグを見つめながら 「そうだよね」 と呟いた。 「まだ月が見えるまで、少し時間があるからバックだけ置きに行こうか?」 とすみれが言ったので 「うん。ところでどこに置くの?」 「普段使っていない3階の教室を、報道陣や一般の人達に開放しているみたいだから、3階に行ってみましょう。」 二人で校舎に向かう。 月を外で見るため、校舎の中には殆ど人が居ない。 そして階段に着いた。 僕は勇気を振り絞り、すみれに手を差し出して 「また転んじゃうと危ないから、手を繋いで階段を登ろう」 今日は心臓がフル稼働だ。 またもや鼓動が鳴り響く。 すると すみれの暖かな手のひらが僕の手のひらと重なった。 僕は重なった手を握る。 「元気、痛いよ」 つい力を入れすぎていたので、まずいと思い手を離した。 すると、すみれの手が僕の方に差し出され 「離さないで」 僕はこれほど胸がキュンとなったのは初めてだった。 告白しよう 今の僕なら出来る。 絶対に出来る。 そして手を繋ぎ階段を登り、3階に着いた。 教室が5室並んでいる。 僕達は真ん中の部屋に入った。 教室には誰もいない。 僕は最大限の勇気を振り絞る。 「すみれ!」 「はい」 すみれが僕の方を向く。 わあ〜緊張して声が出ない。 「すみれ。俺とつき・・・」 その時である。 いきなり後ろのズボンが重くなる。 さっき拾った石が青く光っている。 ドンドン大きくなっていく。 石は後ろポケットから床に落ちると更に大きくなっていき、僕を石が飲み込む様に包み込んでくる。 えっ! 身動きが取れない。 完全に石に包み込まれる。 ! 僕の身体が宙に浮いているのが見える。 ? 僕はここにいるのに? すみれが宙に浮いた僕の身体に向かって 「元気!」 と宙に浮いた僕の足を掴んだ。 でも次の瞬間、教室の6箇所から青い光が教室に差し込んでくる。 その6個の光が交わっている中心に僕の身体が浮いている。 更に次の瞬間、上から青い大きな光が降りてきて、眩しさのあまり、目を一瞬瞑ってしまう。そして目を開けると、僕の身体は無くなっていた。 すみれは天井を見ながら 「元気!元気!」 と天井に向かって叫び続ける。 人が駆けつけて来た 「大丈夫か?」 と泣き崩れる、すみれの肩を掴みながら声を掛けている。 そして次々と心配した人達が教室に入って来た。 一人が僕の方に近づいて来た。 「何でここに満月の石が置いてあるんだ?」 えっ? 俺、石になってるの? 声も出ない。 誰も僕がここにいるのを気づかない。 声は出ないが、必死に呼び続ける。 「僕はここだよ。居なくなったのは僕の身体だけだよ。」 自分で言って、よく分からない。 身体は光と共に無くなり、僕は石になったって事? 信じられないけど、実際そうなんだから、疑いようが無い。 僕はどうなってしまうの?
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!