第2章 元気と祖母

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第2章 元気と祖母

どうしてこんな事になっちゃったの? 元気の身体が浮いて、一瞬閃光が差して目を閉じた瞬間に元気の姿が無くなった。 でも天井も壊れて無いし、人が通り抜けていくほどの穴も無い。 それに私がつまづいた小石が何で? 謎が深まるばかりだが、現実に有り得ない事が起こっている段階で、一般的に物事を考えても分かるはずが無い。 このスーパームーンの月明かりの下で、様々な不可思議な事が起きたのだ。 その後は、警察から何度も同じことを聞かれ、何度も同じ事を答えた。 警察の事情聴取が終わると校舎の3階で眠りに就いた。 そして翌朝 校庭が騒がしい。 「何だろう?」 3階の教室から校庭を見ると、元気が森から帰って来て、周りに人が群がっていた。 「元気!」 私は急いで教室を出て、校庭へ向かった。 校庭の元気を見ると、私は元気の元へ駆け寄った。 「元気、大丈夫だったの?怪我は?」 元気は無表情で私を見る。 そして何も喋らず私の横を通り過ぎて行った。 何で? 何で無視? 私は通り過ぎた元気を追いかけて、後ろから元気の肩を掴みながら 「何で無視するの?心配していたのよ!」 一度後ろを振り返るが無表情で私を見つめ、再び前を向いて歩いていった。 記憶喪失? 私の脳裏にそんな言葉が浮かぶ。 そうか、記憶喪失になってしまったんだ。 私は勝手にそう思い込む。 誰かが一緒にいてあげないと! 元気の両親は、八ヶ岳の山小屋を運営していて、二人とも元気が7歳の時に、行方不明となっている。 私は詳しい事は知らないが、祖母が元気の親代わりで育てていた。 元気の祖母も昨夜から学校に泊まっていたので、遅れてグランドに現れた。 そして元気の所に近づいてくる。 たった一人の身内が記憶喪失だと知ったら、ショックを受けないだろうか心配になった。 そして元気の所に行くとお婆さんは涙を流して無事を喜んだ。 「良かった。本当に良かった」 すると記憶喪失だと思っていた元気が口を開くが、声が出ていない。 しかし、祖母には何か聞こえた様で、二人は抱き合って喜んでいた。 ? えっ? 記憶喪失では無いの? 私は二人の再会を邪魔するつもりは無かったが、元気の記憶が戻ったと思い込み、私も元気の所に行き、話し掛ける。 「元気!私よ、すみれよ。」 すると元気が私に話し掛ける。 「ごめん。君の事は思い出せない。」 恋人になる寸前だった私を忘れるなんて? 何だか悲しくなってきた。 ただ話していて、何か違和感を感じる。 虚しい思いをした私は、ここにいる意味が無くなったので、まだ3階の教室にいる父へ先に帰る事を伝えて、臨時に運行している送迎バスに乗って家に帰った。 私の家の周りには10軒ぐらいの家が間隔をあけて建っている集落だ。 右隣の家は50mぐらい離れていて、左隣は元気の家なのだが、200mも離れている。 とても隣という感覚では無かった。 電気、水道、電話は通っているが、何せ静か過ぎて怖い。 都会の生活で車の音などは、音のうちに入っていなかったが、ここでは車が道を通るだけで、構えてしまう。 そんな夜を一人で過ごすのは、岳山村に越して来て1年過ぎるが、未だに慣れない。 ただ、一人で夜を過ごす日は、父が月に2、3日大学に行く日だけだ。 昨日あんな事があったので、さすがに夜には帰って来ると言っていたが、今日も大学へ報告に行くらしい。 母が居れば良いのだけど、母は私が3歳の時に男と家を飛び出してしまっているので、私は物心ついた頃には、既に父と二人暮らしである。 東京にいる時は、父の両親が面倒を見てくれていたが、小学校5年の時に祖母が亡くなり、小学校6年の時に祖父が脳梗塞で倒れて、今は施設に入居している。 ブブブブブッ 携帯の着信を知らせるバイブ音が流れる。 あっ籐子 籐子とは、岳山中学2年の2人いる女子生徒の私以外の女子である。 小柄で太っていて、顔の肉付きが良いので、頬も膨らみ、顎は二重顎となっている。 目は二重で、本来ならばくっきりとした眼なのだろうが、眼の周りの肉も膨らんでいるので、腫れぼったい目になっている。 ただ、性格は明るく、男子達が彼女を「豚子(トンコ)」と呼んでいるが、決して嫌な顔をせず、冗談で吹き飛ばす。 そんな表裏も無い、素直な女の子である。 「すみれ?昨日はごめんね、行けなくて。」 「ううん。弟が熱を出しちゃったんだからしょうがないよ。それで弟は大丈夫?」 「一夜明けたら、すっかり元気になって遊びに行ってしまったわ」 「昨日は大変だったね。大丈夫だった?」 「うん。でも居なくなった元気が戻ってきたから、良かったよ。ただ、不思議な事がいっぱい起こったから気持ちの整理がつかない」 「今日は、お父さんいるの?」 「昨日の報告をするのに大学に行っちゃったから、今は居ないよ」 「じゃあ、私の家に来れば?弟達がうるさいけど」 「う~ん、どうしようかな?」 「来なよ、もう夏休みも始まって、明日から学校がないんだから」 「じゃあ、パパに聞いてみるね」 籐子の家は、学校から1kmぐらい離れた場所にある大きな家だ。 籐子の父親は村長なので、昨日のイベントにも参加していた。 家族は村長の父と母親、そして4人兄弟で、籐子がお姉さんで弟が3人いる。 昨日熱が出たのは小学校6年の長男だった。 私は父に連絡すると、父も東京に泊まる事になって困っていたみたいで、私の報告に喜んでいた。 もう一度籐子の携帯に電話をして、今日泊まらせてもらう事を伝えた。 電話を切ると、寝巻きや下着等の泊まるための荷物をバックに詰める。 村の巡回バスが1時間に1本でているので、その時間に合わせて家を出た。 籐子の家は村役場からも近く、岳山村にある店がこの周辺に集まっている。 この村で1つだけあるコンビニエンスストアも、この地区にある。 私はバスを降りてすぐに、籐子の家に着いた。 キンコーン チャイムが鳴ると家の中から、ドシドシと走る音がして、玄関のドアが開く。 すると籐子が笑顔で私を招き入れてくれた。 もう17時になっているので、籐子が 「ご飯一緒に食べよう。もう出来てるよ。」 「う、うん」 と荷物を持ちながら、家に上がると 「そうか、荷物があるんだよね、先に荷物を私の部屋に置きに行こう」 籐子の部屋は2階にあり、大きさは7畳と言っているが、大きく感じる。 「これって本当に7畳?」 「うん。何故かここは京間という畳を使っていて、東京なんかで使用されている団地間だと、約9畳の部屋の大きさになるのよ」 「へえ~おもしろいね」 と荷物を置いて、1階の居間に向かった。 3人の弟の迫力に圧倒されながら、せわしなく食事が終わった。 「ねえ、すみれちゃん。コンビニ行く?もうすぐ閉まっちゃうから今のうちにお菓子を買いに行こうよ」 都会ではありえないが、この村のコンビニは、朝は6時に始まり、夜は20時に閉まってしまう。 コンビニの名前も東京では聞いたことが無い。 私達はコンビニに行くため家を出る。 コンビニは籐子の家から学校に向かって、ちょうど中間ぐらいの所にあるので、約500mぐらい歩く事になる。 しかし陽が暮れた村の気温は急激に下がるので、ちょうど心地良い気温となり、歩くには調度いい気温であった。 「ねえ、すみれ?」 「何?」 「元気とは付き合ったの?」 「ううん。元気から告白されている時に、あの事件が起こったの」 「あの事件って、結局どんな事が起こったの?」 「うん。信じられないと思うけど、元気が持っていた石が急に大きくなって、石が元気を包み込もうとした時に、何故か元気の身体だけ宙に浮いたの。 そうしたら、6個の光が元気に向かって伸びて、光が重なると上から更に眩しい光が照らされて、一瞬だけ目を瞑ったら元気が消えて、翌朝、森から元気が戻ってきた。」 「元気は大丈夫だったの?」 「ううん。記憶喪失になったみたいなんだけど、お婆さんの事は分かっていたわ。でも私の事は知らないと言われた。」 「そんな事って?」 「うん。無いよね。ただ、どれもこれも有り得ない事ばかりで、よく分からないわ」
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