第17話 会議の重要性

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第17話 会議の重要性

結局、いくら話し合ったところで、結論は出なかった。 2年半後の夏、人類は滅亡する。翔大という巨大隕石の落下によって。 地球防衛会議とやらは、結局なにも問題を解決することなく終了した。 決まったのは、『衝突方式の採用』のみ。 衝突方式とは、巨大隕石に向かって、弾道ミサイルや人工衛星をぶつけて、軌道を変えさせるという手法のことだ。 だが、具体的に、誰がどのタイミングで、どんなミサイルを発射するのか、詳細な話し合いは、後日ということになった。 後日って、なんだ? 後日って、具体的にいつだよ。 誰がその間に立って、連絡を取り合うのかさえ、決まらなかった。 翔大は目の前に迫ってきている。 それが2年半という時間があったとしても、『衝突方式の採用を決定』という、この10文字だけで、満足していいのか?  そのために、一体どれだけの費用と労力をかけて、会議の準備をしたと思ってるんだ。 大体、そんなの会議なんてわざわざ開かなくたって、ほぼ最初っから結論は出てただろ。 それをこんな大げさな会議を開くことによってしか、決められないだなんて、どんだけビビリなんだ、要するに、責任の分散? 「わざわざ集まって話し合わなくても、衝突方式しか選択肢がないって、分かってましたよね」 俺が栗原さんに聞いたら、栗原さんはうなずいた。 「まぁ、本心はそうだよ」 「じゃあ、こんな会議、やる必要なかったんじゃないんですか? どうして、メールなり電話なりで、分かってることを確認しあわないんですかね。 結論よりも、『会議をした』という事実の方が、重要視されているような気がします」 「確かにそうだ」 栗原さんやセンター長の鴨志田さんは、翔大が発見されて以来、ほとんど家にも帰らず、観測を続けている。 何度見たって変わらないものを、いつまでも懸命に眺め続けている。 「翔大を観察してて、何がそんなに楽しいんですか?」 「楽しくはないさ」 栗原さんは言った。 「どれだけ観察したって、データ取り直したって、もう答えは出てるのに、何も変わりはないですよね」 栗原さんからの、返事はない。 「なのに、なんでそんなことをしているんですか?」 「不安、なんだろうな。自分たちが何も出来ないことが。何かしていないと落ち着かないってゆーか」 「これだけ努力してましたって、言い分け作りですか?」 「そうかもしれないね」 香奈先輩の手が、俺の胸ぐらをつかんだ。 「じゃあ、あんたには何が出来るっていうのよ! ショウターが落ちてくるのを、黙って見ているしか出来ない人間に、何か言う権利はあるの?」 「それが分かっているなら、なんで僕をこんなところに採用したんですか! 文句をいうことしか出来ない人間ですよ!」 じゃあなんで、俺をここに採用したんだよ!  よりにもよってこんなタイミングでさ!  絶望的な悲壮感の漂うこの閉鎖的な空間で、俺だけが無駄にあぶれている。 主人公はいつだって他人で、俺はお邪魔虫だ。 俺に何か出来ることがあったら、とっくの昔に、さっさと自分でやってる! 「衝突方式しか、解決方法がないと分かっているなら、どうして爆弾の準備をしないんですか? 打ち上げるミサイルの、弾道を計算していた方がいいんじゃないですか? どのタイミングで、誰がどう打ち上げるのか、どうして今回の会議で、決められないんですか!」 「俺たちに、決定権がないからだよ」 栗原さんは、疲れた顔でつぶやく。 「それは、うちの部署の担当じゃない。軍事問題が絡む、複雑な問題で、俺たちが口出し出来る立場にない」 翔大が落ちてくる。人類が滅亡する。 迎え撃つ我々に、手段はない。 「じゃあ、衝突方式っていう分かってた答えだけをだして、後は別部署に丸投げですか? それで、言われた事だけをやって、結局何がどう進行しているのかも分からないまま、『はいはい』って、要求されたデータを渡すためだけに、仕事するんですか?」 「そうだよ」 栗原さんは、うつむいた。 「各国機関と連携して、お互いに協力体制を敷いて、親密に連絡を取り合い、問題解決のために、全力を尽くすんだ」 「あぁ、そういう言い方をすると、すっごく分かりやすいですよね! 聞こえもいいし!」 栗原さんや、センター長、他のメンバーだって、必死で頑張ってることを、 俺だって知っている。 「あんたねぇ、何にも分かってないくせに、相変わらず口だけは達者ね」 香奈さんの手を、俺は振り払う。 「えぇ、僕に出来ることは何もないですよ、だって、俺はここに来たばかりだし、専門外だし、いつだってカヤの外でしたからね! 文句言われて腹が立つのは、お互い様じゃないですか!」 いつもなら、ここで鉄拳が飛んでくるはずの香奈先輩の手が、緩やかに俺から離れた。 「みんな初めてのことで、不安なのよ。それだけは分かりなさい」 「分からないですね! 不安なのも、必死なのも分かってますよ、そんなのとっくに! だったらもっと、他にすることがあるだろって、言ってるんです!」 「私の言うことが、分からないのなら、もういい。あんたに用はない」 「あっそ! いいですよ、僕にしたって、こんな何の役にも立たない、無能な部署にいたって、無意味でしょうがないですからね! 無駄な会議やって、意味の無い仕事して、そうだって分かってるのに、なんで変えようとしないんですか?」 栗原さんは、横顔を向けたままで、香奈先輩は、その場から1ミリも動かなかった。 「俺に出来ることなんて、何もないじゃないですか、どうせ、そのうち辞めるつもりだったし、今すぐ辞めてやりますよ!」 「あなたがそう言うなら、誰にも止める権利はないわ」 「じゃ、俺辞めます! さようなら!」 くるりと背を向けた俺に、香奈先輩が最後の言葉をかけてきた。 「守秘義務は守りなさい」 反吐が出る。 どこまで俺をバカにするつもりだ。 こんな所にいたって、俺は俺の無力さを見せつけられるだけでしかない。 こんなクソすぎる職場、二度と戻ってくるもんか!!
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